柴田聡子の7枚目アルバム。だいぶ後回しにしてしまったがようやく聴いた。詳細なレビューは既にたくさんされているし、柴田聡子を深く語れるほど詳しいわけでもないので1、大雑把な感想を。
大きな感想として、テキストの切れ目やアクセントの入れ方(フレーズの出し入れとも言えるかも)が全体を通して変えられまくっており、この言葉ってこんな響きになるのか… という驚きがかなりあった。
たとえば「Synergy」の印象的な冒頭。
ねずみ色の羊雲に染み込み
日増しに澄み渡り潤むオレンジ
まだまだ良くなりそうなシナジー
あえてちゃんと書いてみると「ねずみ」ではなく「needs me」と聞こえるし(「Synergy」と韻を踏む上で英語っぽく発音されていると言える)、その直後は拍節に基づくと「いろのひつじぐ / もにしー / み込み日増しに / 」という切れ目で、不自然な切れ方をしている「もにしー」はねずみと韻を踏むように(英語っぽく)「morning sea」のように聞こえてくる。
単語が元々持っているイントネーションや「リズム」を一度解体して、音楽の中に組み込む過程で緻密に再構築し、その結果として、単語に新しい響きを持たせることに成功している、とでも言えるだろうか。
テキストがストレートに聞こえてこないかと言われたらそういうわけでもなく、印象に残るテキストも少なくない。(とはいえ、歌詞を見ずに聴くと何と言っているのかよくわからない箇所もかなり多いのだが……)
音楽に乗って聞こえてくる歌詞と、音楽と独立に取り出した言葉としての歌詞では全く印象が違うし、この作品は特に音楽と切り離してテキストの良さを語るべきでないと思うけれど、それでも書き出したくなるような言葉の断片がたくさんあった。それらを最後にいくつか記しておきたい。
Movie Light
へそまげるうれしい日
つぼみ咲くかなしい日
変じゃなかった日はなかった
窓閉ざすうれしい日
飴を撒くかなしい日
目の下
目の下にくすんだ赤、黒、乾いた白
ひとり噛み締めたい楽しみを守るにぶい色
うつむき
年々どんどんきれいになる
寝転がって見た星の気ままな散らばり
私も知らないくらい
知ることもないくらい
Your Favorite Things
瞳と瞳のあいだに
トンネルがありますように
今は好きじゃないとしても
Your Favorite Things
柴田聡子
2024 AWDR/LR2 (DDCB-12121)
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