スイス・ロマンド・ヴォーカル・アカデミーというスイスのフランス語圏を本拠地とする声楽アンサンブルによる一枚。全く聴いたことがない合唱団だったが、演奏のクオリティは高い。
マルタンの「二重合唱のためのミサ」が収録されているところから見つけて聴いたのだが、あわせて収録されている世界初録音のヴァレンティン・ヴィラール(Valentin Villard)による「6声のためのミサ」もなかなかの作品でかなりのボリューム感の一枚となっている。
ヴィラールのミサは色々と良かったポイントがある。たとえば、Sanctus の冒頭や Agnus dei の中盤など、管弦楽作品のような音使いが印象的だった。また、Credo の冒頭の女声合唱 + ソロは全体を通しても随一の美しさだったと思う。個人的な好みを言えば、Kyrie が現代曲らしい不穏な響きで始まり、激情的なフォルテの音楽に到達していくまでの盛り上がっていくところはかなり好き。さらに、Benedictus はたっぷりと歌い込まれた独唱と中低音の充実した分厚いハーモニーが特徴的で、この短い一曲だけでも好きなミサだなと思えるくらいの良さがあった。
マルタンのミサが名曲であることは改めて書くまでもないし、録音も決して多くはないがそこそこはリリースされている印象がある。今回のスイス・ロマンド・ヴォーカル・アカデミーによる演奏も特に大きな不足はない。聴いている限り、演奏人数はそこまで多くないと思われるが、十分な重厚感がある。細かいパッセージも的確な軽やさで処理されている。唯一、Sanctus の後半(Benedictus)は肝心なところで少し崩れたかな。
マルタンは総じて良かったんだけど、もちろん上手いんだけど… という感想。個人の好き嫌いの領域に入ることは分かった上で、少なくともこれまで聴いてきたものを超えるほどではなかった。録音の音質はさすがに古いアルバムと比べて良いんだけど、ちょっと「違う」んだよなぁと思ってしまった。
Villard & Martin: Doubles messes a cappella
Académie Vocale de Suisse Romande, Renaud Bouvier, Dominique Tille
2022 (Claves: CD3003)
Presto, musicweb, HMV
★★★☆☆(2024/6/13)