今回はジョルジュ・リゲティの無伴奏合唱作品集。SWR ヴォーカルアンサンブルの演奏で、「無伴奏合唱曲全集」と銘打たれている。指揮は若手の気鋭ユヴァル・ワインバーグ。熱量のあるリゲティを楽しめるなかなかの一枚。過去にリゲティは数回聴いているが、ここまでたくさん聴くのは初めて。なお、キングズ・シンガーズの録音に含まれていた「ナンセンス・マドリガル集」は今回のアルバムには未収録。
ディスク1(全30トラック)は1940年代から1955年までの作品。曲として長い作品は少なく、なじみやすいメロディーラインやリズムを用いた民謡風の(あるいは民謡編曲の)短い作品が多く並んでいる。代表的なのは、女声合唱の『マートラセンティムレの歌』(M5-8)や、混声合唱の『3つのハンガリー民謡』(M28-30)。
一方で、独特の味わいがあって印象的だったのは、M1「おお、若さよ」、M2「パーパイ夫人」と、M9「孤独」、それに続く「夜」「朝」(M10-11)あたり。クラシック音楽が抑圧される中でまさに芸術が「爆発」している印象を受ける。また、アカペラ作品集のはずがなぜかピアノ付きの作品「4つの結婚式の踊り」が収められているが(M23-26)、そんなに浮いている感じはなかった。
ディスク2(全22トラック)は、前半(M1-15)がディスク1と同様に1955年頃までの作品。それ以降(Lux aeterna 以降)が現代曲という構成になっている。前半の作品の中だとM2「水葬」やM7「偉大な時」、M9「冬」は和声的に凝った部分が印象に残った。「2つのカノン」(M14-15)はこの後に続く現代曲を匂わせるような実験的な趣があって良かった。
「永遠の光」以降の現代曲は確かに聞き応えがあり、聴くのも何度目かになってきて少しずつ耳に馴染んできたような感覚はある。とはいえまだ掴みきれない。よく統率の取れた演奏だとは思ったが。また、相対的には「永遠の光」よりも「フリードリヒ・ヘルダーリンによる3つのファンタジー」(M20-22)の方が「わかりやすい」と思うし、こちらの方が直感的には好みなのだが、それでもこの作品の魅力の10分の1も掴めていない気はする。また、「シャーンドル・ヴェレシュの詩によるハンガリーのエチュード」(M17-19)は初めて聴いたが、これまた様々な技法が用いられた難曲。ただ、これも良さを言語化するのは難しいながらも割と良いなぁと思える作品だった。
充実した内容の一枚でかなり楽しめた。
György Ligeti: Complete Works For A Cappella Choir
SWR Vokalensemble, Yuval Weinberg
2023 (SWR Music: SWR19128CD)
Links: Presto, HMV, musicweb(1), musicweb(2), 対訳
★★★★☆(2024/7/14)