最近聴いたポップス曲への感想をまとめて。
最後に乃木坂46の掛橋沙耶香の卒業について少しだけ勢いで書いた。
新譜(2024)
曽我部恵一「アナベル」
沁みるなぁ。素晴らしい曲だった。なにかを喪失する前には、なにかへの慈愛がある。なくなることが予感されたときに急に美しく思えてくることってあるんじゃないかな、みたいなことを思った。たとえば、生命が終わる前には生命への慈愛があるんだろうと思う。生命の終わりがいつも美しいとは思わないけれど、生命の終わりにその生命はなんらかの形で愛を受けるような気はするんだよな。雑感。
パソコン音楽クラブ『Love Flutter』
初めて聴いたがなかなか良い。色々なアーティストが参加しているが、柴田聡子が参加した「Child Replay」とtofubeatsが参加した「ゆらぎ」がとりあえず印象に残ったかな。
藤原さくら『wood mood』
ほとんど「Soup」で止まっていた藤原さくらの上半期リリースのアルバムを聴いた。今年になってからシングル曲とか優河とのユニット曲とかをチラッと聴いていて、だいぶ洗練されてるなという印象はあって(ドラマで見たときもお芝居のレベルは格段に上がっていた)、実際、本作も良い一枚だった。
ジャジーな作品が並んでいる本作。「巡」をはじめ、ウッドベースがよく効いている作品が多いなというのが全体的な印象だった。「森」というテーマで一貫している一枚だが、それは自然を感じられるという意味だけでなく、迷い込む中に差し込む光とか、輪廻転生的な死生観とか、そういうあれこれをすべて包摂するような大きさのある「森」だろう。強いて言うと引き出しの狭さを感じないこともなかったのだが、それでも充実した内容だったと思う。「Close your eyes」と「daybreak」が特に印象に残っている。日本語詞だと「my dear boy」と「巡」あたりが目にとまった。
米津玄師「Red Out」
キレッキレの2分半。圧倒的な斬れ味はトラックだけでなく歌詞も。ちょっとすごすぎて、言葉を失っている。
fox capture plan「Deep Inside」
ドラマの劇伴(カルテット、コンフィデンスマンJPなど)で見かける fox capture plan。劇伴以外の曲を聴くのは初めて。素晴らしかった。生きてて良かったと思った。
polly『Hope Hope Hope』
上半期にリリースされていることを確認して気になっていながらも後回しにしていた一枚。ちゃんと聴くのは初めてのアーティスト。
「See the light」という希望の光を欲するような一曲から始まる本作は全体的に明るめのトラックに鬱々としたリリックが乗っかり、それがファルセットを巧みに使ったどこか人間的でない声によって歌われる。不思議な浮遊感があるpollyの音楽はそばにただ居てくれるような感覚がある。
わざわざ再録された「Slow Goodbye」が「なぜ僕らは失くしてしまうの 大事なものから順に」という言葉から始まり、「生きるのはなぜ痛いの」と歌うのも示唆的であったし、「ghost」の「溶け出すような朝を迎えたい 溶けてしまったままで」、「Long Goodbye」の「目を閉じ見る恐怖は "死ぬ前の景色と似ている"と」、「Snow/Sunset」の「息を止め、ふと気づく "今ここで生きてる"というリアルを」など、ところどころで死(もっと絞って言えば自殺)を匂わせる。
そんな想いは「Lily」で一つの「希望=Hope」へと辿り着く。
いつか灰に変わって
風にふかれ
遠くからあなたを呼んで
また出会って
あの日みたいに笑っていたいんだpolly「Lily」
そして、アルバムの最終曲である「Mei」でも同じような「希望=Hope」を歌う。
いつか僕が灰へと変わっても
きっと僕ら終わりじゃないから
笑って生きてpolly「Mei」
と、まぁ気になったことを色々と書いてしまったのだが、聴けば聴くほど歌詞が強烈なアルバムだったなと思う。紹介しきれなかったやつだと、「Monologue」と「kodoku gokko」はそれぞれアルバムの中でも異彩を放っており、インパクトがあったなと思う。
旧譜(〜2023)
高井息吹『PIANO』
ピアノの素朴なトラックに癖になる柔らかいヴォーカルが乗って、高井息吹らしい幻想的な歌となっている。「Lullaby」がとりわけ良い。ピアノを弾くときの細かい「雑音」も聴こえてきたり、妙にハンドメイド感のあるEPだった。しっとりとしたタッチの楽曲が並ぶ中で「名前のない歌」がピアノも歌も熱がこもっていて印象に残る。
トクマルシューゴ『L.S.T.』
2006年リリース。最新作から見ると18年前。色々と気にならないこともないが、現在のトクマルシューゴと通じるものはたくさんあり、やっぱり色々な音が使われていて、展開に面白さがあって、メロディーにもビートも良い。粗さが楽曲の鋭さになっている感じも。「Mushina」と「Yukinohaka」、あとは「Amayadori」あたりが好み。ラストの「5 A.M.」は7分54秒の大曲。最長かな…?
その他
乃木坂46「チートデイ」
元々見る予定がなかったのだが評判などを踏まえてMVをざっと確認。確かに思ったよりは良かった。「君の名は希望」の系譜であるし、ベタな物語ながらもこの楽曲の中ではほぼ唯一の良心。池田がとても映えるなぁという感想。
余談(掛橋沙耶香のはなし)
昨日8/10、掛橋沙耶香が乃木坂46卒業&芸能界引退を発表した。転落事故から長い月日が経っていて、こうなることは何となく分かっていたけれど、ついに現実になってしまった。悶々としているところはあるけれど、あえて抑制的に整理してみたい。
休養期間の間に様々な経験をして、周囲からは戻ることを期待されていたけれど、6年間を振り返ればもう未練はなかったという旨が卒業ブログに記されていた。読みながらふと、唐揚げにレモンをかけるともうレモンをかける前には戻れない(坂元裕二)という話を考えていた。人間の生とはどこまでも「不可逆」なものだなぁと思う。
怪我をしたり病気になったりすると「治る」ことを期待されるものだけれど、怪我をしたり、病気をした人は治っても「元通り」にはなれないのかもしれない。仮に「傷」が見えなくなったとしても、精神的な部分まで昔と同じ自分に戻ることはできない。たとえば「昔の自分」がずっと評価にまとわりつき、首を絞めてもくるかもしれない。
彼女が「治った」先にあったのがアイドルではない人生だったことに一抹の寂しさを感じないわけではないのだが、すでに次の未来を見ているという報告があったことに希望は感じられた。変化というのは悪い方向だけではない。卒業ブログは写真も文章も「成熟」と言える変化をしていたように思う。
制服を着た笑顔の写真をもう一度見ることができたこと、人数こそ減ってしまったが4期生での卒業セレモニーを配信してくれることに深く感謝したい。不信が消えたわけではないが、それ以上のことを今書く必要はないかなと思う。物語の一章が終わり、新たな章が始まる瞬間を側から見届けられる。半ば諦めていたことが叶う。その裏側には語られることのない悔しさと努力と支えと様々なものがあったに違いない。だからこそ本当にありがたいし、ここで余計なことを語るべきではないだろう。
卒業ブログに添えられた眩しく凛とした笑顔を見た瞬間に、もうきっと未来を見ているんだろうと思った。事故からの休養の日々も含めて過去は「眩しかった」と受け止め、未来の眩しさを信じているんだろうと。そんな表情に見えた。
過去がどんな眩しくても
未来はもっと眩しいかもしれない
個人的に思い出に残っているのは『乃木坂どこへ』から『ノギザカスキッツ』のさらば青春の光・森田との絡みだったので、それだけでも貼っておこう。思い出はお守りになると信じて。