2023年のウィーン・フィル「シェーンブルン夏の夜のコンサート」のライブ録音。指揮はヤニック・ネゼ=セガン。メゾ・ソプラノの独唱にラトビア出身のエリーナ・ガランチャが参加。
この年のテーマは「フランス音楽の粋」。色々と物議を醸した今年のパリ五輪開会式でも、フランスの作曲家の様々な音楽が用いられていた。強烈な表現ばかりが槍玉に上がって安直に酷評されがちだった印象はあるが(もっと言えばあっという間に開会式の話なんかする人はいなくなったが)、冷静に振り返ってみれば、フランスの文化芸術の良さを感じさせる面は多くある開会式だったように思う。おそらく「炎上した部分」だけがパリ五輪の開会式の評価として今後は定着していくだろうが、実際には「炎上しなかった部分」の方が長大であるということは頭の片隅に置いておきたい。そんなことをこのアルバムでフランスの音楽芸術の豊かさと触れながら思った。
それにしても濃いアルバムである。『カルメン 第1組曲』の抜粋から華々しく幕を開けたアルバムはエリーナ・ガランチャの美しい独唱が光るカルメンの「ハバネラ」へ。この時点でもフランス音楽の彩りの豊かさに魅了された。続いて、L.ブーランジェ「春の朝に」、ベルリオーズ「序曲 海賊」という豊かな響きの管弦楽曲を経て、グノー『サッフォー』からの独唱曲へ。前半から中盤にかけて、とにかくエリーナ・ガランチャの独唱に心を奪われた。伸びやかで表情豊かな歌は本当に魅力的だった。
続いて、ラヴェル『ダフニスとクロエ 第2組曲』。プログラムを見た中では一番期待していたところ。テンポが速すぎるという感じはしなかったのだが、まぁでも速めだったからか若干ドキドキさせられるところはあり(良い意味でも悪い意味でも)、それを「ライブ感」と取るか、粗と取るかという感じ。私は「ライブ感」と取りたいかな。なんにせよ楽曲は素晴らしいなと改めて。
再び、エリーナ・ガランチャの伸びやかな独唱が光るサン=サーンス『サムソンとデリラ』より「あなたの声に私の心は開く」を経て、ラヴェル「ボレロ」へ。改めて聴いてみると「ボレロ」は絶妙に怖い曲だなぁと。小さな噛み合わせの悪さでも「気になってしまい」、全体的にはそんなに悪くないと思うが、そっちばかり書きたくなってしまうところはあって。ラストは「ウィーン気質」。色々フランス音楽をやってもちゃんとここに還ってくる。
改めてこのコンサート録音は、初心者が手軽に色々と聴くのに良いアルバムだなと思う。サブスクは手軽に遡れるのがありがたいのでもう少し遡ってみても良いかなという気持ち。
Sommernachtskonzert 2023 / Summer Night Concert 2023
Wiener Philharmoniker, Yannick Nézet-Séguin
2023 / Sony / 19658818942
Links: Presto, hmv
★★★☆☆(2024/8/10)