個人的な話を少々。少し前に色々な(とりわけ精神的な)事情によってこれまで聴いてきたポップス曲がほとんど聴けなくなった。その頃、たまたま手を伸ばした合唱音楽に心を動かされて、それから合唱アルバムの鑑賞記録としてこのブログを書くようになった。そして気づけば三ヶ月ほどが経ち、100枚以上のアルバムの記録をつけた。正直、この熱がこんなに長く続くとは思っていなかったが、いよいよ合唱音楽から離れる時間が長くなってきた。私にとっては合唱を聴く時間が減るのは「良い」ことだとも思っている。それでも聴きたいと思ったものを聴くことを続けられるうちは続けていきたい。
今回はザ・シックスティーンの2023年リリース作。だいぶ気になっていたが後回しにしていた作品。「パートソング」と呼ばれるジャンルのイギリスの合唱作品を集めた一枚。スタンフォード、マコンキー、イモージェン・ホルスト、ヴォーン・ウィリアムズ、フィンジ、アーサー・サリヴァン。最近はパレストリーナばかり聴いていたこともあって新鮮さすらある。
複雑な現代曲からルネサンスあたりまで聴くようになってきた中で、19〜20世紀の作品をあまり聴かなくなってきてしまったが、なんだかんだこの年代の作品が一番好みではある。今回のアルバムも好きなジャンルの合唱作品が並んでいたのが嬉しかった。対位法的に凝っているとか、和声的に凝っているとかではない。自然で親しみやすい旋律とホモフォニックな動きを中心にする中で響く平易な和声、このような音楽に「合唱の原点」を感じてしまう。あえて言うなれば故郷のようなノスタルジアがある。
尚、タイトルになっている「セイレーンの歌」というのは確か美声で船人を死へ誘う話だったと思うが(詳しくないので間違っているかもしれません)、本作は美しい歌によって生きる歓びを感じさせてくれる。そもそも、このタイトルはマコンキーの楽曲から取られているのだが、マコンキーの楽曲はこのアルバムの中でもかなり現代曲的な響きがあって異質であるため、なぜこのタイトルなのかというのは不思議だった。全体的には非常に耳に優しい一枚であった。
Sirens' Song
The Sixteen, Harry Christophers, Julie Cooper, Joshua Cooter, Sioned Williams
2023 / Coro / COR16198
Links: Presto, hmv, Booklet(pdf)
★★★★☆(2024/8/19)