What Didn't Kill Us

生存記録。大したこと書いてないので。

My Best Choral Albums of 2024 (So Far) 番外編②

合唱アルバムのマイベスト関連ブログの最終回は、ベスト10に入らず次点となった古楽アルバム(中世、ルネサンス、バロック)を公開。こうして並べて思ったのはマイベストには入れなかったが名盤が多い。グラモフォンなどの評価はむしろこちらの方が高い作品も多いかも。

ⅵ. Lassus: The Alchemist, Vol. 1


Magnificat, Philip Cave
(Linn: CKD660)

オルランド・ディ・ラッソ(オルランドゥス・ラッスス)の「マニフィカト」とその原曲となったポリフォニー作品をイギリスの声楽アンサンブルであるマニフィカトの演奏でたっぷり楽しむ2時間半。原曲のポリフォニー曲がどのようにマニフィカトに組み込まれているかを確認するような聴き方もできるし、もう少しシンプルに他の作曲家との作風の違いに目を向けてみるような聴き方もできる。漫然と聴こえてくる音に耳を傾けるだけでも、或いは作業用のように聴いても良いだろう。一度目に聴いたときはそこまで強い印象を持たなかったが、聴けば聴くほど魅了されていく感覚があり、個人的にはこのアルバムで以前よりラッソの音楽が好きになった気がする。マニフィカトの緻密なアンサンブルも言うまでもなく素晴らしい。ラッソのマニフィカトに満たされた時間は決して悪くない。

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ⅶ. Heinrich Schütz: Musikalische Exequien


Chor des Bayerischen Rundfunk, Capella de la Torre, Florian Helgath
(Deutsche HM: 19658879272)

ハインリッヒ・シュッツの『音楽による葬送』を中心に、初期バロックの名作をバイエルン放送合唱団&カペラ・デ・ラ・トーレの演奏で聴く一枚。シュッツやモンテヴェルディなど、この時代の音楽には気高さがあり、そこにある種の近寄り難さを感じてしまうところはあるが、この演奏は耳の中にスッと入ってくる感覚があった。ヘッセン=カッセル「オランダ風トランペットのパヴァーヌ」やモンテヴェルディ「西の風がもどり好天をもたらす」といった器楽曲は優しい風を吹かせ、ガブリエリ、シェッレ、そしてシュッツの合唱曲では人間の声と器楽が混じり合うことで温もりをもたらす。この魅力は優しい美しさと書いて「優美」と形容したい。ここでもヘルガートはいい仕事をしている。

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ⅷ. Padovano: Missa A La Dolc' Ombra & Missa Domine A Lingua Dolosa


Cinquecento
(Hyperion: CDA68407)

チンクエチェントの2024年新作はルネサンス後期の作曲家アンニーバレ・パドヴァーノによる2つのミサ曲を収めた一枚。旋律的・和声的に華やかさがある美しいミサだった。男声アンサンブルの温かさに溢れたサウンドが心地良かった。チンクエチェントの音楽にはいつも傍に置いておきたくなるような安心感がある。

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ⅸ. Queen of Hearts


Gesualdo Six, Owain Park
(Hyperion: CDA68453)

今年秋に初来日予定のジェズアルド・シックス。9枚目アルバムである本作は神聖な女王=聖母マリアと世俗的な女王に捧げられたモテットやシャンソンを集めたプログラム。ルネサンス期(16世紀)の作品を幅広く取り上げるとともに、短い現代曲もスパイスとして少しだけ組み込まれている。プログラムについての理解を深めるには時間がかかりそうだが、バラエティ豊かな一枚であることは間違いない。柔軟で精彩に富んだアンサンブルはきわめて美しく魅力的で、漫然と聴いても十分に楽しめる。

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ⅹ. Masters of Imitation


The Sixteen, Harry Christophers
(Coro: COR16203)

ザ・シックスティーンが取り上げたのは16世紀頃の「パロディ」音楽。聖歌等から旋律だけを借用する定旋律ミサと異なり、「パロディ・ミサ」は聖俗を問わない既存作品から旋律、対旋律、リズム型などあらゆる要素を借用して作曲されていたのだという。本アルバムは、パロディ・ミサの名手であったオルランド・ディ・ラッソ(ラッスス)の作品を中心に、最後にはラッソの作品をボブ・チルコットが「模倣」した委嘱作品まで収録。著作権などの権利概念が浸透して「パクり」には何かと厳しくなった現代だが、クリエイティビティが溢れている模倣も存在すると感じられる。ラッソ中心の一枚ではあるが、M. カスラーナの短い作品も良いし、締めのチルコットも素晴らしい。

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ⅺ. La Hèle: Missa Praeter Rerum Seriem & Works By Manchicourt, Payen & Rogier


El Leon de Oro, Peter Phillips, Marco Antonio García de Paz
(Hyperion: CDA68439)

ジョスカンのモテットを原曲としているジョルジュ・ド・ラ・エルのミサ「万物の連なりを超えて」という初全曲録音作品を中心に、ルネサンス末期に活躍した作曲家の作品をエル・レオン・デ・オロ(スペイン)の演奏で。タリス・スコラーズのディレクターとして有名なピーター・フィリップスの指揮による録音というのが目を引く。タリス・スコラーズほどの高いクオリティを期待してしまうとさすがに物足りないが、それでも十分にハイレベルな演奏。ド・ラ・エルのミサも良かったが、個人的にはマンシクールの楽曲に惹かれたところ。ただ全体的には凡庸だなと思ってしまった。

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