昨日に引き続き。ハイライトとしては、スカートの新譜に大きく喜び、折坂悠太の『心理』をようやく聴いて感動して、松木美定 & 鈴木真海子の新曲に圧倒された。音楽に救われてギリギリ生きていられるってこういうことか。
- スカート『Extended Vol.1』
- 日食なつこ「Fly-by (2024 observed ver.)」
- 松木美定 & 鈴木真海子「提案」
- クジラ夜の街 & 崎山蒼志「激情」
- ペペッターズ「アステロイド」
- 日向文『swallow』
- 折坂悠太『心理』
スカート『Extended Vol.1』
楽しみにしていたスカートと一流ミュージシャンのコラボ作品を集めたEP。リリースしてすぐに聴き始めた。既にリリースされている「地下鉄の揺れるリズムで」(在日ファンク・村上基)、「波のない夏」(adieu)から始まり、SPECIAL OTHERSを迎えた「ブランクスペース」、Laura day romanceの井上花月を迎えた「君に会いに行こう」、そしてパソコン音楽クラブと三浦透子を迎えた「ストーリー - Remix Version」を収録。随所にスカートらしさを感じながらも普段のスカートではまず聴けないような音楽に魅了される。
「ブランクスペース」がトラック的には一番スカートらしい気もするのだが、SPECIAL OTHERS「が」入ったというよりSPECIAL OTHERS「に」入った感じもする。スカートらしい気もするのに、なんかいつもと違って変で、爽やかなサウンドで歌っている内容が絶妙に暗い。もはやこれは絶望なのか。そのギャップが不思議とクセになる。インタビューを読むまで意識もしていなかったのだが、そうか確かに5拍子だ…「君に会いに行こう」は井上花月の歌がめちゃくちゃ良い。トラックもスカートのスローバラードの系譜であるし、この曲はリリックの飾らない感じがものすごく好み。ラブソングだとは思うけど友情ソングとして聴くこともできるだろうな。「遠回り」とか「急ぎすぎない帰り道」と「今すぐ」の対比描写がいい。パソコン音楽クラブによるリミックスバージョンの「ストーリー」は、なんというか近未来スカートという味わい。スカートの音楽って基本的にアコースティックなバンドサウンドだが、それをエレクトロニックに振り切ったのが聴いていて面白かった。女性ボーカルはこのEPでは珍しくもないが、三浦透子ってやっぱりちょっと異質だな。そしてスカートではあり得ない曲の長さ。でも全く飽きさせない。
ナタリーのインタビューで「期待と予感で挫折を味わった」という話をしていて、普通に良い曲なんだけどなぁ…と思いながら、まぁ確かに「期待と予感」から「君はきっとずっと知らない」あたりの圧倒的な「スカート臭」が行き詰まりなのだとしたら、全く別のベクトルに切り替えたのが本作ということになるのかなとは思ったり。私はその「スカート臭」こそが好きなんだけど、本作も耳はめちゃくちゃ喜んでいる。次にどんな道に進むのかというのが楽しみでしょうがない。【2024/9】
●スカート「Extended Vol.1」インタビュー|村上基、adieu、スペアザ、井上花月、パ音のコメントも掲載 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー
日食なつこ「Fly-by (2024 observed ver.)」
日食なつこのベストアルバムが9月18日に出るという情報を知って、これはようやく過去の作品を聴くチャンスではと思っている。今のところM-1の「ログマロープ」はじめ数曲しか知らないし、もうちょっと聴いてみたかった気持ちがあったので。
先行配信されていた「Fly-by」は、調べてみると2011年リリース『FESTOON』に収録されているとのこと。かなりメロディックなバラードであるが、力強さと儚さが混じったアルトボイスが素晴らしかった。「交点座標」という言葉の響きが何度聴いてもめちゃくちゃ良いな。「交点座標に頼らない 分かり合えないこと恐れたりしない」というラインが特に好み。【2024/9】
松木美定 & 鈴木真海子「提案」
大江戸温泉物語グループのコマーシャルに起用された新曲。松木美定の作詞作曲で、メインヴォーカルを鈴木真海子が務める。疾走感のある素晴らしい楽曲だった。「線路は続くよどこまでも」をワンフレーズ引用する遊び、松木美定の楽曲らしいキラキラ感のあるトラック、キャッチーさのあるメロディ、そしてエモーショナルなコード進行、松木美定の入門曲という感じだな。そして、鈴木真海子のヴォーカルがこれまた素晴らしいですね。いやぁ素晴らしいな。松木さんの曲、女性ヴォーカルがめちゃくちゃ合うじゃんという気づきもあった(そういえば楽曲提供してたやつも良かったな)。このYouTube映像は映像も相まって素晴らしかったのだが、音質とかいろいろ考えると早期のストリーミング配信にも期待。
— 松木美定 Bitei Matsuki (@matsukibitei) 2024年9月3日
クジラ夜の街 & 崎山蒼志「激情」
完全に「劇場」と歌っていると思ったら、歌詞内では「激情」も入っているし、タイトルは後者。キャッチーで良い楽曲。【2024/8】
ペペッターズ「アステロイド」
とんでもなく癖になった。語彙力がなさすぎるがちょっと「ヤバい」。【2024/8】
日向文『swallow』
2024年リリースのEP『誰も知らない』から入った日向文の過去作を遡ってみた。『swallow』はギターを基調に日向文らしい熱のこもった歌詞をよく聞かせていくというSSWらしい楽曲が中心だが、ピアノやストリングス系などの音色も巧みに用いた重層的なトラックとなっているのが良い。その流れで最後の「ライバー」のみアコギ弾き語り(いっぱつにゅうこん)だったのが印象的だった。アルバムの中でも平易で直球の歌詞も相まって感動的だった。あとは、6分曲の「波よ、君の頬を」からサウンド的に工夫のとても多い「私は化物」を経て、2分半曲の「カタルシス」へと連なる流れ、とても良かった。【2022】
折坂悠太『心理』
圧巻だった。ノスタルジックな気もするし、エスニックな気もするサウンドスケープ。日本的な土着性を感じる反面、特定の地名で語るべきではないような普遍性も感じられる歌唱。そうして届けられるのは、この世界の孤独感や寂寥感、或いは絶望感や不条理感を強烈に刺激してくるような感覚と、そこに一筋の光を灯すような優しさが同時にあるコトバ。
インタビューも読んでみたが、世界の複雑さに直面しながらも、そこから逃げて短絡的に敵を決めつけて加熱していくのではなく、その複雑さを受け止めた上で複雑なままに飲み込み、そして自分なりの考えに到達しようと模索する姿勢が窺える。それを読みながら「荼毘」の「今生きる私を救おう」というラインにこのアルバムの本質があるのかもしれないと感じた。正解や不正解では語り得ない複雑さを前に、それでも問題と真正面から向き合うことをあきらめない。「私だけだ この街で こんな想いをしてるやつは」(トーチ)。それでもその孤独を噛み締めながら、世界と向き合い続けようという讃歌なのだと思う。
東京タワーを繰り返し歌ってきた小沢健二が東京タワーを「東京の街に孤独を捧げている」と歌い上げ、さらには「生きることはいつの月日も難しくて複雑で不可解で(中略)全部 答えがないけど」と歌った「高い塔」など、小沢健二のアルバム『so kakkoii 宇宙』と重なる問題意識を感じながらもそこに断絶を感じたのも事実。小沢健二が宇宙に進んでいった一方で、折坂悠太は地に足をつけている。坂元裕二『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』で言えば、星空の美しさを知る朝陽と地面に咲く花の美しさを知る練の対比のような。だんだん何が言いたいのか分からなくなってきたが、ようやく「新しい光」を明確に見つけた感覚があった。感謝するしかない。【2021】