今週リリースされた新譜をチェック。聴く量が増えてきたことで、気になるニューリリースも増え続けていて、更新頻度も高くしないと追いつかない。更新の仕方を再考している。今回のハイライトは優河とPAS TASTA。次点でTeleも良かったな。
- 優河『Love Deluxe』
- 曽我部恵一「永い夜 (2024 version)」
- 田中喉笛交響楽団「悲しいテレパシー (feat. 瞬こや)」
- にしな「plum」
- 浮「そのもの」
- 瞬こや「衝動第二章」
- cosmomule「夏の蛾」
- PAS TASTA & Eastern Margins「BULLDOSER」
- Tele「包帯」
優河『Love Deluxe』
優河をはじめて聴いたのは『妻、小学生になる』の主題歌だった「灯火」。それから『言葉のない夜に』に感動して「people」以降はほぼ全てのシングルが配信開始されたらすぐに聴いているし、過去のアルバムやEPも配信されているものは一通り聴いてきた。珍しく?以前から追ってきたアーティストの一人。このブログを書くようになって色々なミュージシャンと出会ってなかったとしても、このアルバムだけは確実に聴いていただろう。
先行配信されてきた遠い朝、Sunset、Don't Remember Me、泡になってもについても先に聴いてきたので何となく新しい方向性は分かっていたわけだが、アルバムとして聴いても今回の方向転換はかなり挑戦的だなというのが第一印象だった。そういう路線がこれまでに全くなかったわけではなかったものの(『魔法』には近いところがある)、これまでのイメージを大きく覆す新しさがある。少なくとも楽曲の面では『言葉のない夜に』の優河はあまり感じられない。スローナンバーのLost In Your LoveとかフォーキーなMotherに少しずつ残っているくらい。歌詞で「夜」ってよく歌われることなど、ときおり顔を出す「優河らしさ」に触れながらも、基本的には優河の新たな境地を楽しむ一枚だった。「people」は未収録だが、この並びに入るわけないよなという。
ベースやドラムスが織りなすビートを重視したダンサブルなナンバーやヒップホップ的なナンバーが多く収録された本作は「根暗も踊れるダンスアルバム」というテーマだという。「根暗」っていうのがいいなと思う。明らかに陽キャの音楽ではない。格式高さがあるようで、むしろ誰にでも開かれているようなダンスミュージック感がある。なぜか分からないけど、古畑任三郎が松嶋菜々子と踊るのを思い出した。一聴して圧倒的に惹かれたのはLove Deluxe。これは言葉を尽くさずともただただ大好きになったので何度でも聴ける。独特な響きの香りも気になった。こういう音楽、どこかで聴いたことがある気がするんだけど全く思い出せない。既に聴いてきた楽曲もアルバムの流れで聴くと違って聴こえてきたりする。特に泡になってもの優しさが沁みた。【2024/9】
●なぜ優河は今「根暗も踊れるダンスアルバム」を作り上げたのか?その道筋を解き明かす『Love Deluxe』インタビュー | SENSA インタビュー
曽我部恵一「永い夜 (2024 version)」
永い夜がぼくをつかまえる
深い闇にやられちまう
戦争はたぶんなくならないんだろう
ぼくらは泣く
ぼくらは泣くぜ
曽我部恵一「永い夜」
歴が浅すぎて知らなかったが、2009年リリースの曽我部恵一BAND『ハピネス!』に収録されている同曲。この時代にこの曲をもう一度録音し直すことにミュージシャンとしての信念を見出さないのはむしろ失礼だろう。疾走感のあるロックチューンでトラックもしっかりとしているが、アカペラバージョンまで収録されていることから考えても、とにかく歌詞までちゃんと聞いてくれという意志を感じる。「ぼくら」にできることはちっぽけかもしれないが、それでも祈り、そして歌うんだという決意に溢れた一曲。それが「ハピネス」というアルバムに収録されていたことにも大きな意味を感じる。(ドラマチックな演出は好かない部分もある番組だが)『映像の世紀バタフライエフェクト』も示しているように、市井の小さな小さな抵抗がより大きな変革を生んでいくことはある。そう信じることから始めないといけない。現実を見ることは大切だが、結局のところ現実的=リアリスティックな考え方というのも、青臭いことを語ることから、理念に立ち返ることから始めなければいけないんじゃないか。そうしなければ現実的という名目でどんどん都合のいい方向に流されてしまうんじゃないか。最近はそんなことを思っている。【2024/9】
田中喉笛交響楽団「悲しいテレパシー (feat. 瞬こや)」
歌詞からトラックの空気感までアイドルポップスのような感じだなぁと思っていたら、本当に瞬こやって「ピューパ!!」というアイドルグループのメンバーだという。歌はかわいらしいんだけどノイジーなギターが鳴っていたり、ポップとロックの中間点のような楽曲だなと。喉笛さんにはもっとアイドルポップスをやってほしいかも。【2024/9】
にしな「plum」
bugs、It's a piece of cakeに続く2024年の三作目。安定して期待しているタイプの楽曲を届けてくれるなという気持ち。自然に身体がリズムに乗っている。【2024/9】
浮「そのもの」
浮と書いて「ブイ」と読むらしい。とにかくいい声だなぁと。いい喩えかは分からないが、スタジオジブリ映画の主題歌とかになっていてもおかしくないような純朴感と高い歌唱力。中低音の弦楽器(素人すぎて音色で判別できなかったのだがチェロか?)も味があって良かった。【2024/9】
瞬こや「衝動第二章」
ベルセデスの田中喉笛が作編曲、瞬こや自身が作詞のハード系ロックチューン。悪くないんじゃないという感想。こういう曲の感じならサンボマスターあたりでいいかなぁという気持ちもあるし、ちょっと not for me now なところはあるが。疾走感のあるトラックはなんだかんだ言って耳によくなじんだ。【2024/9】
cosmomule「夏の蛾」
ほんの少しヒリっとするようなラブソング。東京という地名があまりにもあまりにもという感じだ。こういう歌に東京という地名の持つパワーは果たしてどれだけの人に共有されているものなのだろう、みたいなことをぼんやり思う。もしかすると私のための歌かもしれない。【2024/9】
PAS TASTA & Eastern Margins「BULLDOSER」
とんでもなさすぎる。カッコ良すぎる。短い時間の中でこんなに色んなことをやってこんなに強烈な印象を残せるのか。音楽ってすごいな。先月、はじめて松木美定を聴いたときにも相当な衝撃を受けたが、それと同等以上の衝撃を受けた。立て続けにこういう出会いがあることがもう幸福すぎる。何かを書くよりもとにかく再生したい。再生し続けたい。過去のアルバムも聴いていかないと。【2024/9】
Tele「包帯」
歌詞の筆致に驚かされた。シンプルなトラックだが、この歌詞の強さがあれば何度でも聴ける気がする。「諦めた後啜る珈琲は、少し甘い。」なんて書ける人、なかなかいない気がする。「未来は、生き延びた灰の溜り場じゃないんだ。」なんて歌われたら泣いてしまいそう。【2024/9】