What Didn't Kill Us

生存記録。大したこと書いてないので。

Josquin: I. Motets & chansons / Cut Circle

少し前にGramophone Awards 2024 の部門ごとの候補が発表された。聴いていないアルバムが色々と選出されていたので、とりあえず一つでも多く聴いてみようと思っている。余談ながら、個人的にはそこまで重要ではないものの、最近 Presto Music のサイトでEditor's Choiceに選ばれていたり、賞をとっていることが確認されたアルバムの記事に「Choice」というカテゴリをつけている。

今回は古楽部門(Early Music)で候補に選出されたアルバムの中からカット・サークルのジョスカンを選んだ。

ルネサンス音楽、とりわけフランドル楽派の大家であるジョスカン・デ・プレの作品は、まだルネサンス初心者である私のようなリスナーでも既に色々と聴いているわけだが、こうやってジョスカンのみに浸るアルバムはまだあまり多くない。今回のアルバムにはジョスカン作曲のモテット作品が7曲、シャンソン作品が9曲収められている。モテットはしばしば聴いてきたが、おそらくシャンソンは初めて聴くと思う。

モテットは厳粛な雰囲気の楽曲が並んでいる。アルバム最長13分の「Miserere mei, Deus」をはじめ、たっぷりとした楽曲が多く、ゆったりと落ち着いて聴くに限るだろう。もう少し厚みのあるサウンドで聴きたくなるところもあったが、少人数のアンサンブルはきわめて洗練されており、迫力に欠けるということはなかった。基本よく丁寧に歌われていたように思うし、ジョスカンのモテット作品というのは言語化する必要もないほど素晴らしいということを改めて実感した。

続いて、シャンソンを聴くのはおそらくグランドラヴォアのアルバム以来か。モテットのイメージとは一転して、俗的な味わいの楽曲が並ぶ。楽曲もかなり短くなり、軽やかに吹き抜けていくような音楽が増えた印象を受ける。カット・サークルの荒っぽいポップス系歌唱もここでは爆発的であり、少しバーバーショップ・カルテットと通底するものも感じる。イントネーション(アーティキュレーションやデュナーミク)の付け方も非常に楽しい。ジョスカンの洗練された書法はシャンソンでも健在。合唱音楽の発展と宗教音楽(モテットやミサなど)は切り離せないし、クラシカルな演奏会やアルバムではそちらが録音の中心になりやすい印象があるが、こうして聴くとシャンソン音楽もモテットと同等以上に魅力的な音楽に溢れている。

シャンソンを中心にカット・サークルの高いアンサンブル技術が爆発していることを感じられたし、モテットも含めて少しクセのある歌唱ながらも高いアンサンブル技術によって表現されたジョスカンの精緻な音楽を楽しめる、良い一枚だったと思う。


Josquin: I. Motets & chansons
Cut Circle, Jesse Rodin
2023 / Musique en Wallonie / MEW2307
★★★★☆(2024/9/5)

●Links: Presto, hmv

Josquin: I. Motets & chansons

Josquin: I. Motets & chansons

  • Cut Circle & Jesse Rodin
  • クラシック
  • ¥1681