ルネサンス後期から初期バロックにかけてイタリアでは世俗歌曲である「マドリガーレ」が流行した。フランスで言うところの「シャンソン」、イギリスで言うところの「マドリガル」と近い位置付けのジャンルだろう(多分)。マドリガーレについて「主題は恋愛を扱ったものが多く、音型や音程などで人間の心のありよう、すなわち情緒(アフェット)を巧みに表現しています」(出典)と解説されることからも分かるが、世俗的なテクストに対して技巧的でオシャレな曲がつけられており、聴いていてもまさに「ポピュラー音楽」らしい楽しさがある。
今回のアルバムは、ドイツの初期バロックを代表する作曲家であるハインリッヒ・シュッツが作曲した「イタリア語のマドリガーレ集 第1巻」の録音が収められている。このアルバムも「Gramophone Awards 2024」の候補(古楽)に選出。
ポール・アグニュー × レザール・フロリサンはジェズアルドやモンテヴェルディのマドリガーレをこれまでにも多数録音しているらしい。このような作品の演奏に慣れているんだろうなということをものすごく感じられる演奏。イタリア語が分かれば(何を歌っているかが分かれば)もっと楽しめるんだろうけど、各声部の歌唱が絶品であり、旋律の絡み合いや音の移り変わりを聞いているだけでも充分すぎるくらい楽しめる。
今回のシュッツのマドリガーレを聴きながら、これまでにシュッツの『音楽による葬送』や『宗教的合唱曲集』などを聴いてきたときにはまったく感じなかったような「イタリアの風」を感じられた気がする。何にイタリアっぽさを感じているのかはよくわからないのだが、ジェズアルドのテネブレ・レスポンソリウムとかを聴いているときに近い「熱量」を感じたのは確か。大満足。
Schütz: Italian Madrigals
Les Arts Florissants, Paul Agnew
2023 / Harmonia Mundi / HAF8905374
★★★★★(2024/9/5)
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