ここ数日は、まだ一度も聴いたことのないミュージシャンのニューリリースを聴き、新東京とローラズの過去作を漁った。新しく出会った人たちは四者四様で良かったけど、個人的にFUJIが印象的。
- 越冬『越冬』
- FUJI『欠伸をした神様』
- JABBERLOOP『NOW』
- MoritaSaki in the pool『Love is Over!』
- 新東京『新東京 #3 (Organic)』(2023)
- 新東京「#Vaporwave」(2023)
- Laura day romance『Awesome.ep』(2022)
- Laura day romance『Seasons.ep』(2022)
越冬『越冬』
ポストポストポストパンクを自称するドラムレスのスリーピースバンドということくらいしか前情報がなく、SNSでは裸のラリーズやジャックスとの類似性を指摘されているのを見かけたのだが(どちらも60年代頃から活躍した日本のサイケデリック・バンドらしい。浅学で存じ上げなかった…)、とりあえず聴いてみてさすがに驚いた。聴く人を選ぶってこういうことを言うんだろうなという先鋭的な響きもあるが、妙に歌謡曲っぽいキャッチーさがあり、トラディショナルなロックやら歌謡やらの系譜を継承しながら、2020年代の新しさを同時に見出せる。曲のバリエーションも豊かで、「越冬」と言いながら、「サマー・ヴァケイション」から始まるのはちょっと笑っちゃう。作業をしながら聴いていると定期的に手を止めたくなってしまって全く捗らない。私には数回聴いたくらいでは理解しきれない領域だったのも確かだが、不思議といいものに出会えたという満足感は高い。⑧
FUJI『欠伸をした神様』
「Room X」から一気に引き込まれた。なんだろうな、私の語彙だとこの魅力をあまり説明しきれないのだが、まずJ-POPってまだ可能性に満ち満ちているし、やっぱり素晴らしいんだなというのが第一印象。音もかなりの充実感があるが、言葉をかなり重視していることは間違いない。難しい言葉を使っているわけではないのだが意味を捉えていくのは難しい。「- W A S T E D -」や「激硬の骨」をはじめ、歌詞は視覚的にも面白い。「encode β9」とかはもう本当にいい歌だなぁと思った。日常に根ざしている感覚はあって、それでも日常から離れた世界に連れて行ってくれるのが音楽とかこういう娯楽の役割なんだろうなぁと思う。⑧
JABBERLOOP『NOW』
5人組のクラブ・ジャズバンドであるジャバループの結成20周年アルバム。最高にグルービーな楽曲が並んでいる。過去の名曲のリアレンジが中心ということもあってか、ベストアルバムのような趣もあって、どの曲も魅力的。朗々と鳴り響くトランペットが特に好き。ベタなところだろうけど「Missing My Bird」と「シロクマ」は良すぎる。⑦
MoritaSaki in the pool『Love is Over!』
モリタサキさんは実在はするけどバンドメンバーにはいないらしい。まぁそんなことはどうでもいいといえばどうでもいいのだが、このモリタサキさんというのが、実在しているのに一切掴めない「空気」のような存在ってことなんだろうと思ったとき、それを否定的なニュアンスとして受け取ることもできるけれど、空気って生存には不可欠なんだよなということも思わずにいられない。バリバリに鳴らすシューゲイザーサウンドで展開されていく各曲も、強烈で個性的にもかかわらず、妙に掴みどころがなく虚無的にも響くのがおもしろい。死や喪失などを歌っているからだろうか(Ghost dreamとか)。
昔、スローライフ系の映画で『プール』という映画を見たなぁということをふと思い出した。『かもめ食堂』とか『めがね』とかもそうだけど、このあたりの映画って「何も起こらない」からほのぼのとしているのだが、その中に不思議な虚無感と喪失感がある。このアルバムには違うかも知れないけど妙に類似するものを感じた。深く突き刺さった感覚もないが、妙に心に残った。⑧
○MoritaSaki in the pool インタビュー 無色透明のプールサイド・ミュージック – Sleep like a pillow
新東京『新東京 #3 (Organic)』(2023)
sanagi、Heavy Fog、The summer was 11Hz、Pearlを収録。先鋭的なEPだった#3をリアレンジし、平たく言えば「聴きやすく」、本人たちの言葉を借りれば「より普遍的で外向きな全く新しい美」へと生まれ変わった一枚。聴いてみると二者を比較して良し悪しを述べるのは意外と難しいところで、複雑さが減ったと述べるのも明らかに違う。音の種類を減らし、音数も厳選したことで、さらに「凝っている」感じがする。ヴォーカルを含めて各パートがより際立っているのが良いところで、歌詞の良さを感じる。ただ、元の#3にもこちらにしかない多彩で豊潤な味があって、どちらが好きかと問われると迷う。現時点ではわずかに元の#3推し。⑨
新東京「#Vaporwave」(2023)
ヴェイパーウェイブと呼ばれる音楽ジャンルも知らないので、その定義に当てはまりませんと言われても困ってしまうのだが、楽曲としては他の新東京の楽曲とはかなり異なる趣がある。技巧的であるだけでなく、かなり実験的な感じもある。これまで聴いてきた中でも一番くらいによく分かってないのだが、もしかすると単曲では一番ハマっているかもしれない。⑨
Laura day romance『Awesome.ep』(2022)
「8月の最後の切なさを切り取りたくて四畳半でペンを走らせている最中」という印象的な言葉からはじまる、疾走感のある「olive drive 橄欖思巡」をはじめ、秋の曲が3つ並んだEP。秋に聴いているんだから沁みないわけもないけど、外は相変わらず夏模様。日本には四季があるなんて言っても、ここ数年は気候変動の影響もあって春や秋がどんどんその存在感を小さくしており、いずれ消えてしまうかもしれない。それでも、この中に刻まれた「秋」は消えないでほしいと願ってしまう。⑦
Laura day romance『Seasons.ep』(2022)
潮風の人、tender icecream、the boy blue。夏の歌らしいんだけど、爽やかそうに見えて結構な重たさを感じる。ローラズってふと耳に入ってくる言葉にじんわりと心が揺さぶられるときがあって、特に「潮風の人」のこの一節には個人的にちょっとびっくりするくらい喰らった。
流れる時間が違うから
考えもずれるでしょう
あなたみたいになれないから
せめて繋がっていよう
透き通るけどおなじくらい残酷な
潮風の人
潮風の人
人生は諸行無常で人間もまたいとも容易く変わってしまう。一度交わった二本の線はもう離れていくだけなんて言葉が思い出され、大切な人とも離れていくしかないかのような感覚が芽生える。それでも繋がっていようというのは傷つく覚悟が必要だよなぁみたいな、ぼんやり形にならないままに思っていたことが急にくっきりしたような感じがあって、急にグサっとやられてしまった。⑧