What Didn't Kill Us

娯楽を借りた生存記録

Ravel: Daphnis et Chloé / Sinfonia of London

モーリス・ラヴェルの曲といえば、一般に最も有名なのは『ボレロ』だろう。ところが、私のような吹奏楽民からすると、ボレロは吹奏楽(特に吹奏楽コンクール)ではなかなか演奏されるものではなく、むしろ『ダフニスとクロエ 第二組曲』の方が圧倒的に人気なので、こちらの方がよく聴いていたりする。数年前に確認したときには、全国大会においてレスピーギ作曲『ローマの祭り』に次いで二番目に多く演奏されていた(はず)。ただ、『第二組曲』を聴くことは何度もあったが全曲版は初めて。Wikipediaも確認したが、第二組曲は第三場、アルバムでいえばNo.10からNo.12に相当する。

そんな(個人的には)有名曲ということもあってhmvでの解説を読んだときには驚いた。

ロシアのバレエ・リュスを主宰するセルゲイ・ディアギレフの委嘱によって作曲され、今もなお頻繁に取り上げられる『ダフニスとクロエ』の楽譜には、あまりに多くの矛盾や省略、誤植があり、ラヴェルがリハーサルで行った数多くの変更がパート譜からフル・スコアに引き継がれないなど、長年演奏家や指揮者、音楽学者の間で大きな議論の的となっていました。

今回のアルバムでは、ジョン・ウィルソンによる最新の校訂版を使用しており、そのジョン・ウィルソンとシンフォニア・オブ・ロンドンがタッグを組んで全曲録音が実現した。これまで用いられてきた楽譜との違いに目を向け、その変化を楽しむような聴き方ができたらもっと楽しいのかもしれないが、今回はそういうことは一切考えずに聴いていった。

あくまで全体的な印象だが、非常に優等生的で丁寧な演奏であり、細かいパッセージまでよく聞こえてくるし、統率もよく取れている演奏だった。もっと妖艶でダイナミックさのある演奏を聴きたかった気持ちもあるが、このあたりは個人の好みでしかないだろう。これまでもよく聴いてきた後半のパートはあらためて聴いても素晴らしいなと思う。「夜明け」の圧倒的感動、「無言劇」の美、そして「全員の踊り」の狂喜乱舞。この十数分の音楽だけでもう満足してしまう。それに加えて前半も幻想的で美しい部分が多くみられた。当たり前だが、前半と後半で同じようなモチーフが使われているのに気づくのも楽しい。合唱も一楽器として随所で加わっているが、他の楽器と同じく独特の色がつくのを感じられた。あと、この楽曲はフルートとクラリネットが印象的に使われているのが好き。

ちなみに本作も「Gramophone Awards 2024」の管弦楽部門ノミネート作品。個人的にもとても満足できるアルバムだった。


Ravel: Daphnis et Chloé
Sinfonia of London, Sinfonia of London Chorus, John Wilson
2023 / Chandos / CHSA5327
★★★★★(2024/9/7)

○Links: Presto, hmv, eclassical

Ravel: Daphnis et Chloé (Complete Ballet)

Ravel: Daphnis et Chloé (Complete Ballet)

  • Sinfonia of London Chorus, シンフォニア・オブ・ロンドン & ジョン・ウィルソン
  • クラシック
  • ¥1528