What Didn't Kill Us

娯楽を借りた生存記録

最近聴いた音楽 / 24-09-25

最近聴いた音楽について、いつも通り邦楽の記録を書いたが、今回は後半に配信視聴した東京都吹奏楽コンクールのことを書いた。基本的にどの演奏もそれぞれに良さがあったという大前提のもと、それでも否定的な部分も含めて感じたところを述べている。

Blume popo『Body Meets Dress』

自己(私とは何であるか)というテーマは哲学や心理学、社会学をはじめ、多くの学問において古くからの重要なテーマである。音楽でも自己やアイデンティティといったテーマは何度も何度も歌われてきた。そんなテーマに果敢に挑んで「“私”はどこまでが“私”であり、それは一体何が規定するのか」という問いに対する考察を示したブルーメポポのEP。

そのテーマについて新たな示唆を得ることができたかという点については、一旦その判断を留保しておきたいと思うが、ここに収められた四曲がいずれも稀有な完成度のオルタナ・ロックであったことはしっかりと書いておきたい。⑨

“私”はどこまでが“私”なのか? Blume popoがEP『Body Meets Dress』をリリース – Sleep like a pillow

[Oaiko]Blume popo interview|Oaiko

Body Meets Dress - EP

Body Meets Dress - EP

  • Blume popo
  • オルタナティブ
  • ¥1020

Blume popo『Dress Meets Body』

ブルーメポポのEP『Body Meets Dress』のリミックスEP。phritz、quoree、是、nu_imiが参加。ごめんなさい、この分野に明るくなさすぎて誰も存じ上げない。自己というのは他者のまなざしに反射させることによって浮かび上がっていくというのはそうだろうし、平野啓一郎の「分人主義」に依拠するならば、remixerごとに異なる「Blume popo」の人格が立ち現れてくることになるだろう。

個人的には元のEPが楽曲的にも「ちょうど良かった」のでリミックスに期待していなかった部分はあり、実際に聴いてみて、やはりミックスが(個人的には)過剰だなというのが率直な印象だった。その一方で、各曲で新しい「表情」が見えた部分もあったのは良かったし、必ずしも嫌ではなかった。⑥

バンドにとっての身体・空間とは? Blume popoが前作と対をなすEP『Dress Meets Body』をリリース – Sleep like a pillow

Dress Meets Body - EP

Dress Meets Body - EP

  • Various Artists
  • オルタナティブ
  • ¥1020

賽「Veb」/「灯」

シングル「Budding」より。インストゥルメンタルのジャズナンバー。ミディアムからスローのナンバーが2曲並び、特に「灯」からは子守唄のような優しさを感じた。もうちょっとはっちゃけるくらいの大胆さがある方が個人的には好み。⑥

Budding - Single

Budding - Single

  • ジャズ
  • ¥306

Sam Gendel & 細野晴臣「恋は桃色」

細野晴臣『HOSONO HOUSE』のカヴァー・プロジェクトが着々と進んでいる。なんて書いたはいいけれど、ちゃんとアルバムを通しで聴いたことがないので、今回もサム・ゲンデルによるバージョンと並行して原曲を聴いた。原曲の素朴感というか、「原風景」感というか、そういうものに魅了された中でサム・ゲンデルのバージョンを聴いたら、こちらはこちらでギターとヴォーカルを基調とするじんわり沁みるような温かみに包まれた音楽で、かなり大胆に変えているっぽいんだけどちゃんと通底するものを遺していて、とんでもなく良かった。洋楽に手を出せばこういうミュージシャンとの出会いがたくさんあるんだろうけど… ⑧

恋は桃色

恋は桃色

  • Sam Gendel & 細野晴臣
  • オルタナティブ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

恋は桃色

恋は桃色

  • 細野晴臣
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes


柴田聡子『がんばれ!メロディー』(2019)

柴田聡子のうたの独特さは意外と説明するのが難しい。今回聴いたアルバムもタイトルに「メロディー」を冠しているが、柴田聡子のうたのメロディーは良い意味で不安定であり、一風変わった跳躍や下降なども多く、独特の浮遊感がある。歌おうとすると難しい。一つ確実に言えることは、柴田聡子のうたはいつも雄弁に言葉を「語っている」が、それは朗読とは全く異なる味わいで「語られる」ということだ。詞先、曲先はさておき、言葉がメロディーを誘っているようにも聞こえるし、メロディーが言葉を誘っているようにも聞こえる。言葉が活きるうたというのはこういうことなんじゃないかなぁと(素人ながら)思う。どの曲も素晴らしかったのだが、個人的には「涙」「心の中の猫」が特に推し。⑧

Ganbare! Melody

Ganbare! Melody

  • 柴田聡子
  • J-Pop
  • ¥2037

OGRE YOU ASSHOLE『家の外』(2023)

10曲収録のオウガの最新アルバム『自然とコンピューター』が40分で、4曲収録の本EP『家の外』が25分というのは何かのバグかと思ってしまう。もっと言えば、待ち時間、家の外、ただ立ってる、長い間と曲名を並べるだけで分かるように、ただ家の外で待っているだけの内容。EPとしては大きく二部構成で、「待ち時間」から「ただ立ってる」まではシームレスに接続されていく13分、後半の「長い間」が単曲で12分。ちょっと笑っちゃうような構成だが、よく洗練された魅力的な楽曲が並んでいて、非常に心地の良い時間を過ごせた。「長い間」は確かに長いけど、キックがしっかりしていて聴き心地が良くあっという間。インストゥルメンタルの「待ち時間」もかなりの名曲で、そこからの「家の外」への流れが素晴らしい。これは通しで聴くのが良さそう。⑧

Outside of the House - EP

Outside of the House - EP

  • OGRE YOU ASSHOLE
  • オルタナティブ
  • ¥917


番外: 東京都吹奏楽コンクール(9/23, 24)の感想

吹奏楽プラス(朝日新聞)の配信で東京都吹奏楽コンクールの配信を視聴した。ホールでチケットを買って見た2018年以来に見る(多分)。以下、ど素人の感想なのであしからず。

高校の部。全体的に私が出場した時よりもきわめてレベルが高くなっていた。部活動の時間制限など厳しくなったはずだが、どうやっているのだろう。銅賞がなかったのだが、下手な団体がなかったというより3ランクに分けられるほど実力に差がなかったという印象。逆に2ランク(金賞と銀賞)の差はある。配信で聴く限りではかなりデッドな響きで、全体的に粗が目立っていた。音が「うるさい」と感じることも多かったが、そんなに低評価でもなく、相変わらず爆音は評価される傾向にあるのかなと思うなど。

12団体で選択された課題曲は1と3のみ。自由曲は近年の全国大会でどこかが演奏して高成績を収めていた曲が中心。上手いは上手いが聴いていて息が詰まるようなコンクールだった。さらに言えば、難曲への果敢な挑戦は素晴らしいが「正しい音を出しました」「頑張って吹きました」になっている箇所が少なからずあり、実力に見合っていないのでは?と感じることも。見合っていないなりに精一杯の表現をしているならばまだしも、音が出れば何となく形になってしまう「コンクール向きの」曲におんぶにだっこの演奏も散見された。私もかつてそんなコンクール文化にどっぷりと浸かった一人だったわけだが、いざ離れて見てみるとあまり評価する気にはなれない。

聴いていく中では、埼玉栄サウンドに通じるものを感じさせた岩倉高、少人数のバンドながらもチューバやホルンのソロ、サックスソリなどの歌い上げが絶品だった国本女子高など、琴線に触れる演奏もあった。その中でピカイチの聞き応えがあったのは片倉高の『秘儀Ⅳ〈行進〉』。高校の部の中で、これは聴いて良かったと唯一思えた演奏。馬場先生の指揮姿には衰えを感じたし、課題曲は崩れ気味だったが、西村朗の自由曲だけは楽曲への深い造詣を感じさせる圧巻の演奏だった。この感動を下手に言語化したくはないが、あえて記述すると片倉の演奏には他の団体にはない、音楽的な「狂」があったと思う。偉そうに言えば、高校の部でほとんど唯一まともな「音楽」が聴けた。

少し悪口を書くが、今大会一番の仕上がりで全国を決めた某校、頭一つ以上抜けて上手かったのだが、申し訳ないけど自由曲はどこかで聴いた作品の継ぎ接ぎのような「量産型作品」としか言いようがなくて何ひとつ記憶に残らず。指揮者がニッコニコだったことが唯一の記憶。これはこの学校に限った話ではなく、高校の部や中学の部の一部団体はどんどん無個性的でつまらなくなっているのが実に寂しいし、それを高く評価していてはガラパゴス化が進むばかりだろうと思ってしまう。コンクールでも芸術的に優れた音楽を聴かせる団体はあるわけで、決して無理な話をしているわけではないと思うんだけどなぁ…(その某高校だって、白鳥の湖とかをやっていた頃はもう少し聞き応えがあった)。

以下、手短に残りの部の雑感を。

大学の部。東海大が課題曲Ⅲは二日間のベストパフォーマンスとでも言うべき仕上がりであり、自由曲の「ローマの祭り」も充実した演奏だったが、直後の亜細亜大の「メキシコの祭り」もこれまた素晴らしい演奏だった。総合的に見れば東海大の方が良かったが、亜細亜大の音楽づくりは東海大と同等以上であり、マイベストに選んでも良いくらいかなと思ったところ。高校の部とは異なり、各バンドのカラーを感じられる演奏が多く、選曲も含めてバラエティ豊かだったのが好感。

中学の部。玉川学園のラフ2、西新井の火の鳥といった管弦楽作品への果敢な挑戦は、だいぶ苦しいところもあったが音楽への真摯な向き合いを感じられて聞き応えがあった。鹿本中の自作自演が上手くハマっていて、自由曲の完成度は中学の部でもトップクラス。羽村一中は往年の玉寄サウンドに決して見劣りしない良いネリベル。もう少し洗練されると良いが、この時代に「交響的断章」を丁寧に仕上げたのが素晴らしいなと。小平三中は相変わらず上手いが、松下倫士の作品はいまひとつピンと来ず。

職一の部。全てを見ることができたわけではなかったが、この部門は個性的な演奏も少なくないのが良いなと。中高生バンドの延長のような(それだけならまだいいが)無個性的で面白みに欠けるバンドも一部にみられたが、社会人バンドの魅力が詰まった演奏と出会えればチャラになる。一つにはSoul Sonorityが独創的でなかなか印象に残る演奏だった。自由曲も悪くなかったが、課題曲Ⅳがなかなか面白かった。加えてラストのおそきの「ワインダーク・シー」はかなり素晴らしかった。この曲は精華女子の模倣、悪く言えば劣化版のような演奏が中高生バンドを中心に量産されてきた印象があるが、おそきの演奏は荒い部分や未熟な部分もありながら、そうした量産型の演奏と一線を画す良い演奏だったように思う。尚、職一で結果的にワースト2まで11団体が金賞となったことについては、さすがに評価制度の見直しが必要ではないかと考えるが(銅賞を出さないことについても個人的には見直して欲しいと思っている)、ここでは細かくは触れないでおく。

(公開後加筆)

マイベスト
高校の部: 片倉高『秘儀Ⅳ〈行進〉』
大学の部: 東海大『ローマの祭り』
中学の部: 羽村一中『交響的断章』
職一の部: おそきウインドアンサンブル青樹『ワインダーク・シー』