What Didn't Kill Us

生存記録。レビューではなく日記。

最近聴いた邦楽 / 24-10-26

月末にかけて新譜を中心に色々と聴いている。時間は限られているが、どうしても繰り返し聴きたい音楽もあるし、新しい出会いをゆっくり味わいたくもなったりする。今はいつ飽きるかなというのだけが気がかりだ。

kiss the gambler『Relax!』

はじめて聴いたのだが、TOMOO、にしな、あたりの令和の女性SSWと並べられるような実力を感じた。玉手箱のように色々な音が聞こえてくるアレンジではあるが、中核にはまっすぐで飾らない言葉を基本とする明快なソングライティング、そして癖のない温かい歌唱は「みんなのうた」のようで。そこには少しの不満というか、自分の好みとのズレを感じないわけではないのだが、この音楽は「ケア」が溢れていて、明るいが決して眩しすぎず、生活の傍にそっと居てくれるような温もりがある。

たとえば「Winter of 96」は「君を苦しめる人から離れて」と歌い、「ひとりで決めない」はメンクリに行った自分を褒めるようにフルーツパーラーを食べようねと歌う。自然と歌詞が聞こえてきて、そっと抱きしめてくれるような。こんなに優しい歌があるだろうか。精神的に苦しみながらギリギリ今日を生きる者たちのための讃歌のようだ。⑧

kiss the gamblerが見つけた新しい歌――唯一無二のシンガーソングライターが語る活動開始から新作『Relax!』まで | Mikiki by TOWER RECORDS

Relax! - EP

Relax! - EP

  • kiss the gambler
  • インディ・ポップ
  • ¥1528

SPECIAL OTHERS ACOUSTIC『ORION』

スカートとのコラボでスペアザのことを知ったはいいが、結局全然聴いてないな。最近はあんまりインスト曲を聴かないし、聴いてみてもなんとなく肌に合わないなというのはあるんだけど、いつかのためにストックしておくのは悪くないかなと。アコースティックなサウンドのインストゥルメンタル曲としてはこれまで聴いてきた中でもトップクラス。身体は無意識のうちに揺れ、ととのっていく。⑦

Orion

Orion

  • SPECIAL OTHERS ACOUSTIC
  • J-Pop
  • ¥2241

THE HOLDENS『RAIMUGI』

アートワークから想像した以上にぐっと渋く懐かしいバンドミュージック。家主に近い感じがする(同じレーベル)。きらきら、ドラキュラ、いろいろ、できたら、という韻の良い曲名が冒頭から並んでいて、これらもなかなか良いじゃんと思ったのだが、一聴したときに印象的だったのは後半戦。じんわりとグッドメロディーが沁みてくるThings、「火星にかえろう」というフレーズが印象的に繰り返される火星の生活、さらには「生きるのが不安だー!」と叫ぶふたりから、このバンドがいいバンドだということを示すように全てが良い方向に噛み合った(特に4分20秒ごろが最高)早春という畳みかけが良かった。ときおり歌唱がフラット気味だったり不安定さを感じるのは、わざとなのか技術の問題なのかは分からないが、その不安定な脆さが魅力的でもある。私は結構好き。⑨

Raimugi

Raimugi

  • THE HOLDENS
  • ロック
  • ¥2241

yeti let you notice『utsukushiimono』

さすがに「うつくしいもの」というタイトルを冠するだけはある、美しいメロディーメイク、そして音を割と厳選している印象の素朴なサウンドメイクが印象的なep。とはいえ、美しいものを歌っているはずの各曲の中で歌われているのは、逆説的なことに美しくなれない(だからこそ美しいものを求める)わたしたちの生活そのもの、という感じ。歌詞は退廃的な美しさを帯びていて、そう思うと楽曲までそういう方向に聞こえてくる気もする。はじめて聴いたときのインパクトがそこまで強いわけでもないのに、不思議と気になって仕方ない。⑨

beautiful things - EP

beautiful things - EP

  • yeti let you notice
  • オルタナティブ
  • ¥764

downt『SAKANA e.p.』(2022)

「minamisenju」が特に最高で、ANORAK!と合わせれば南千住、北千住と並べられるなぁとか考えてしまった。全体的に言葉のない部分がたっぷりとあり、長いアウトロや間奏でのバンドがもうずっと素晴らしい。イヤホンの音量を大きめにして、たっぷりと浸かるのが楽しいな。⑧

SAKANA e.p.

SAKANA e.p.

  • downt
  • オルタナティブ
  • ¥611

Wool & The Pants『Wool & The Pants』(2017)

Wool & The Pants はこれだよなぁというダウナーな響き。最新アルバムと比べるとまた違う部分もあるけれど、最初期の作品からその根幹の部分は変わらないことが確認できる。ひたすらに循環する音楽は自然と眠りを誘うような、そんな心地良さもあった。⑧

Wool & The Pants

Wool & The Pants

  • Wool & The Pants
  • R&B/ソウル
  • ¥1069

その他

何かの番組でピーコさんと対談した時に、「今こうしてたくさんテレビに出始めて、とんでもなく忙しいでしょ? でもね、消費される側に回るとね、たとえどんなに暮らしが豊かになってもね、5年もすれば枯渇するのよ。それは覚悟しておきなさい。あなたが30年以上かけてインプットしてきた経験や知識も、一度すべて空っぽになるから。私もそうだった。全部の引き出しがすっからかんになった。だけど忙しいとインプットが追い付かない。それからが勝負なのよ」と言われたことを、今でも折に触れて思い出します。

ふと、小沢健二「アルペジオ」の「しばし君は消費する僕と消費される僕をからかう」という一節を思い出した。たったそれだけのことなんだけど、なぜか息が苦しくなる感覚があった。

アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)

アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)

  • 小沢健二
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes