ルネサンス期を代表する作曲家による作品と、それらの作品に基づいた現代作曲家による応答を委嘱・録音するというプロジェクトを進めている ORA Singers & スージー・ディグビーによる「ルネサンスの至宝とその反映」シリーズの第二弾「Many are the Wonders」。第一弾のバードに続き、16世紀イギリスの作曲家トマス・タリスによる作品を取り上げている。ルネサンス縛りの第7回目。ORA への偏りが激しい。
アルバムのタイトルは日本語にすると「多くの不思議」である。ブックレットの解説では、タリスについて十分な資料が残っておらず多くの点で謎に満ちていることが強調されている。たとえば、カトリックとプロテスタントの対立の中で同時代のバードはカトリックに対する強い忠誠を示していたことが記録に残っているが、タリスがこれらの対立をどう受け止めたかについては明確な証拠が残っていないという。
あえて言うと、本アルバムに収録されているタリス作曲の作品から、特定の「個性」を見出すのは難しいと感じた。タリスとはこういう作風の作曲家だ、という掴みどころが難しい。半音でぶつけてきたりすると、タリスかも?みたいな印象を持つことはあるが(false relation というやつ)。
「タリスらしさ」なるものが仮にあるとして、それは If ye love me や O Nata Lux あたりの簡素な作品に表れているか、はたまた Videte Miraculum のような大作に表れているか。雑な言い方をすれば別の作曲家の作品と言われても疑わない気がするくらい、作曲のスタイルを柔軟に(おそらく要請に応じて強制的にだろうが)変えることができる作曲家だったとは言えそうかなと思った。
印象的な作品について。まず If ye love me は男声合唱の編成で歌われ、ホモフォニックな作品なので、同声合唱らしいよく溶け合うサウンドがよく合っていた。フェルコによる反映は原曲の甘美さを尊重しながら現代的な響きに昇華させていく一作。O Nata Lux とエスコットによる応答作は「光」を感じさせるような美しいハーモニーが特徴的。
Loquebantur はポリフォニーの趣が強い一曲であり、その応答作であるバートンの Many are the Wonders はタリスの趣を残しながらも、よりポップな響きやジャズ的な趣のあるゴスペル曲。こんな昇華の仕方があるのかと、これまでの ORA 委嘱の作品の中でもトップレベルに驚かされた。
本アルバム随一の大曲 Videte Miraculum は全体を通してさすがの演奏。ソプラノの響きがもう少し柔らかいと良いなと思うところはしばしばあったが、この辺は好みの問題であろう。アランによる応答作は下降音形のリフレインが特に印象的に響く一作だった。
ORA のアルバムにしては、少し粗が感じられるところもあったが、十分なボリュームでタリスやそれに連なる音楽を楽しめる一枚だった。
Many are the Wonders - Renaissance gems and their reflections Volume 2: Tallis
ORA, Suzi Digby
2017 (Harmonia Mundi: HMM905284)
Presto, musicweb, HMV
★★★★☆(2024/6/16)