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Russian Choral Concertos: An Introduction / Yekaterinburg Philharmonic Choir

ロシアのエカテリンブルク・フィルハーモニー合唱団 × アンドレイ・ペトレンコの新譜をApple Music で見つけた。

昨今の情勢もあって、ロシア音楽に触れることに少しの抵抗感があるが、ロシアという国の国民を一枚岩で捉えるのも、人間を一面的に捉えるのも、努めて避ける必要があるのかなと思ったりもしている。

坂元裕二『カルテット』第10話では、逮捕されて週刊誌で面白おかしく叩かれたヴァイオリニストが「わたしが弾く音楽はこれから全部灰色になると思うんです」と言い、名もなき聴衆には「みなさんの音楽は煙突から出た煙のようなものです」と言われながらも、そんな「灰色の」音楽の存在意義を示した。煙突から出た煙であっても風にのって、届く人には届いてしまうのだと1

それは演奏家にとっての答えであるとともに、聴き手にとっての答えでもあったのだろうと今さら思う。「自由を手にした僕らはグレー」ということが「おとなの掟」(椎名林檎)なのだ。グレーをそのまま受け止めて音楽を聴くという選択もあり得るはずだろうと思う。

前置きがすっかり長くなってしまったが、エカテリンブルク・フィルハーモニー合唱団の新譜は、ロシアの「合唱協奏曲」(ソリストと合唱)の名作を辿るものである。18世紀後半から19世紀初頭のデグチャレフ、ボルトニャンスキーの作品に始まり、19世紀後半から20世紀前半にかけてのアルハンゲリスキー、ラフマニノフ、チェスノコフの作品を経て、20世紀後半のガヴリリン、スヴィリードフの作品で閉じられる。

ロシアの合唱団はヨーロッパなどの合唱団とはかなり異なる、泥臭さのあるパワフルな響きが特徴というイメージもあるが、この一枚は全体的によく洗練されている演奏である。ただ、残響の問題か発声が深いからかビブラートのせいか、特に強奏のときにハーモニーの輪郭がずっとボケているような感じがしてしまう。

とはいえ、間違いなくロシア合唱曲の歴史をたどりながら、重厚な響きを楽しめる一枚ではある。個人的にはチェスノコフってこんなに良かったっけ、(「天使は叫びぬ」、「悪人の謀に行かざる人は幸なり」、「神はわれらと共に在り」)という発見のある一枚だった。

また、ラフマニノフとチェスノコフくらいしかこれまで知らなかったので、デグチャレフ、ボルトニャンスキー、アルハンゲリスキー、ガヴリリン、スヴィリードフといった初めて聴く作品もかなり楽しめたし、Introductionとしての役割を果たしてくれた一枚だった。(2024/5/23)


Russian Choral Concertos: An Introduction
Yekaterinburg Philharmonic Choir, Andrei Petrenko
2024 Fuga Libera (FUG828)
Links: Presto, hmv

Russian Choral Concertos: An Introduction

Russian Choral Concertos: An Introduction

  • Yekaterinburg Philharmonic Choir & Andrei Petrenko
  • クラシック
  • ¥1681
★★☆☆☆


  1. 同じ2017年、小沢健二がSEKAI NO OWARI とコラボして「ベーコンといちごジャムが一緒にある世界へ」と歌った(『フクロウの声が聞こえる」)ことも書いておきたくなる。