What Didn't Kill Us

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Amazing Grace の合唱編曲について

Amazing Graceアメイジング・グレイス)は改めて説明するまでもないほど有名な賛美歌であり(Wikipedia)、合唱編曲にも様々なバージョンが存在する。個人的に愛聴しているバージョンをまとめた。

Daniel Brinsmead 編曲版

まず、これぞ王道という Daniel Brinsmead による編曲版(楽譜リンク)。Salt Lake Vocal Artists の演奏で聴くことができる。和音も明快であるし、転調に乗って自然と曲が盛り上がっていく。シンプルなアレンジが聴きたいときはコレかなと。

Alice Parker & Robert Shaw 編曲版

続いて、こちらも原曲をそのまま活かしたAlice Parker & Robert Shawによる編曲版(楽譜リンク)。Robert Shaw Festival Singers の演奏で聴くことができる(Apple Music)。Tenor による(演奏はAltoっぽくも聞こえる)ソロとtuttiが交互に現れるアレンジで、一番宗教的な響きのするアレンジだと(勝手に)思っている。

Eriks Esenvalds 編曲版

Stars や O salutaris hostia など、近年日本でも演奏機会の多いエセンヴァルズによる編曲版(楽譜リンク)。Apple Musicではトリニティ・カレッジ混声合唱団や、カメール合唱団などの演奏を聴くことができる。YouTube ではラトビア国立合唱団などの演奏が聴くことができる。

ハーモニーの組み方や対旋律の流れ方などからエセンヴァルズらしさ(のようなもの)を感じる。ソプラノソロにはじまり、8声の混声合唱に広がり、ふたたびのソプラノソロを経て、8声の強奏で閉じるという編曲。弱奏で閉じる編曲が多いので少し珍しい気もする。

和音も旋律の絡み方も複雑めで、転調の仕方も特徴的。トリニティ・カレッジの演奏もカメール合唱団の演奏も、どちらを聴いてもテンションの高い(複雑な)コードが華美な響きを生んでおり、なかなかオシャレなアレンジである。

Zero8 版

スウェーデンの(特に、バーバーショップを得意としている)男声合唱団 Zero8 のアルバム「In My Life」の最終曲に収録されている男声合唱版のAmazing Grace

余談だが、この編曲は2018年の来日公演(たしか渋谷公演)を生で聴いたのが出会いだった(来日公演)。あの日の感動というか熱狂というか興奮というかは本当に忘れられない。人生の中で気づいたらスタンディングオベーションをしていたのは未だあの日だけである。

構成としてはソロにはじまり、続いて低音が持続する中(オルゲルプンクト)でのソリ、そしてハーモニーが広がりフォルテに到達したところでは旋律のさらに上に重ねるようなソリ(オブリガート?)が響き渡り、その後、tuttiで最高点に到達したらあっという間に落ち着いていき、弱奏で静かに閉じられる。

その他いろいろ

最近、YouTubeで出会った Ensemble Altera 版は、この曲の持つ美しさを最大限まで引き出すような混声合唱アレンジ。開始数秒で一気に惹き込まれる。エセンヴァルズ版と比べるとシンプルだが、上級なアレンジであることは確か。

ボブ・チルコット作曲の「Newton's Amazing Grace」は、Amazing Graceの作詩者である牧師ジョン・ニュートンの生きざまを描いた男声合唱作品。Amazing Graceのモチーフを使いながらも牧歌的な原曲とは全く印象の異なる楽曲である(楽譜リンク)。有名だが、オルフェイ・ドレンガルの「De profoundis」に収められた演奏がとても良い(Apple Music)。日本では関西学院グリークラブがコンクールで取り上げた年に流行った印象がある。

スウェーデン男声合唱団であるスヴァンホルム・シンガーズのアルバム「Exclusive」には、Amazing Graceと「赤とんぼ」(山田耕筰)を組み合わせたアレンジが収録されている(Apple Music)。こういうマッシュアップ的な作品は個人的にとても好きである(他にも、Amazing Grace とは関係ないが、「レ・ミゼラブル」の夢やぶれて/オン・マイ・オウン をミックスしたやつとかも好み)。

最後に、合唱版ではなくボイスパーカッションを伴う「アカペラ版」と呼んだ方が近いだろうが、Mckay Crockett アレンジの BYU Vocal Point 版はポップステイストであるが、ハーモニーの作り方にクラシカルな重厚さもあって、個人的に好みのアレンジである(Apple Music, 楽譜リンク)。