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バッハのモテットを聴く: 2023新譜3枚

J.S.バッハの6作のモテットは毎年のように新しい録音が行われ、すでに数多のアルバムがあるため、一体どれから手を出したら良いものかといつも迷ってしまうし、新しいものになかなか手を出せない。これまでは、ベルニウス × シュトゥットガルト室内合唱団(Carus CAR83298)や、ピション × ピグマリオン(Harmonia Mundi HMM902657)の演奏を愛聴してきた。

さて、2023年はソロモンズ・ノット(Solomon's Knot)、テネブレ(Tenebrae)、オタワ・バッハ合唱団(Ottawa Bach Choir)という3つの実力派団体によるモテット(集)のアルバムが出た。

ブログのネタになるかなとも考え、重い腰をあげてようやくこれら3枚を聴いた。サブスクの時代はこの辺の聴き比べが楽にできるのがありがたい。

本来ならば、聴き比べた印象を丁寧に書き記したかったのだが、各曲を細かく比べる余裕まではなかったので、各盤の特徴などに触れながら簡単に感想を記していきたい。


Johann Sebastian Bach: Motetten

Johann Sebastian Bach: Motetten

  • シュトットガルト室内合唱団, Hartwig Groth, Christof Roos & フリーダー・ベルニウス
  • クラシック
  • ¥1935

Johann Sebastian Bach: Motets

Johann Sebastian Bach: Motets

  • ピグマリオン & ラファエル・ピション
  • クラシック
  • ¥1681


ソロモンズ・ノット

小編成古楽アンサンブルであるソロモンズ・ノットのアルバム「Bach Motets」は、J.S.バッハのモテット6作に、J.S.バッハの父の従兄弟にあたるヨハン・クリストフ・バッハ(J.C.バッハ)のモテットが4曲挿入されたアルバムである。

一曲目の「Komm, Jesu, komm」の一音目だけでも分かるが、高貴で唯一無二のアンサンブルが魅力の一枚。演奏が始まれば曲の世界に一瞬で惹きこまれ、最後まで独特の緊張感が持続する。弱奏の美しさもさることながら、少人数であることを感じさせない強奏の重厚さも圧巻。

ソロの声質はかなり粒だって聞こえるため複数の旋律が混じり合っても(1パート複数人の)合唱とはかなり異なる趣がある。ときどき音量のバランスが崩れて埋もれているパートがあったり、フレーズが絡み合う中で縦がズレ(かけ)ていて、少しヒヤッとするところもあったが、そのような「スリリングさ」も含めて魅力的な演奏である。

J.C.バッハ作のモテットが全体的にいい味を出しており、個人的には「Herr, nun lässest du deinen Diener in Friede fahren」が印象的だった。J.C.バッハの「Fürchte dich nicht」 からJ.S.バッハの「Fürchte dich nicht, ich bin bei dir」に行く流れも面白かった。

J.S.バッハ作のモテットの中では「Komm Jesu, komm (BMV229)」のアンサンブルが特に緻密だなと感じた。曲のカラーがダイナミックに変化する「Jesu, meine Freude (BMV227)」、上品なフレージングとドルチェの響きが特徴的な「Fürchte dich nicht, ich bin bei dir (BMV228)」も良かった。全体を通してとても面白いアルバムだった。


Bach Motets
Solomon's Knot
2023 Prospero Classical (PROSP0073)
Links: presto, hmv

Bach Motets

Bach Motets

  • Solomon's Knot
  • クラシック
  • ¥1681
★★★★☆


テネブレ

テネブレ(ナイジェル・ショート指揮)によるアルバム「Bach & Macmillan: Motets and Sacred Songs」は、タイトル通りバッハのモテット3作(229, 227, 225)とマクミランの宗教曲「テネブレ・レスポンソリウム」の3曲を中心とした5曲から構成されている。

明らかにバッハとマクミランを並べて聴くことに意味がある一枚だと思われたため、バッハだけでなくマクミランも聴いた。

バッハ三作は非常に充実した演奏で、前半に置かれた「Komm, Jesu, komm」や「Jesu, meine Freude」はドラマチックに歌い込まれており、終曲に置かれた「Singet dem Herrn」は明るく歌われ、華美なエンディングを飾っていた。

一方、最後まで聴き終わってみればマクミランの方が印象に残っている。「Miserere」や「I Saw Eternity the Other Night」の荘厳な美しさ、そして「テネブレ・レスポンソリウム」のⅡ、Ⅲの烈しさ。もちろんバッハを聴こうと思っていたのだが、結果的にはむしろバッハを添えて聴くマクミランに魅了される一枚だった。


Bach & Macmillan: Motets and Sacred Songs
Tenebrae, Nigel Short
2023 Signum (SIGCD773)
Links: presto, hmv

Bach & MacMillan: Motets and Sacred Songs (Live)

Bach & MacMillan: Motets and Sacred Songs (Live)

  • テネブレ & ナイジェル・ショート
  • クラシック
  • ¥1528
★★★★☆


オタワ・バッハ合唱団

カナダの著名な合唱団の一つであるオタワ・バッハ合唱団によるアルバムは、バッハのモテット6作のみが録音されている純粋な「J.S.バッハのモテット集」である。

オタワ・バッハ合唱団のこのアルバムは、歌い込むところは丁寧に歌い込みながらも全体的に快活な演奏。テンポはところどころかなり速いが、それでもテキストがよく立っており、細部までよく聞こえてくる。

かなり印象的だったのが高速ながらも緻密な演奏だったBMV225 (Singet dem Herrn) と、解釈が全体的に凝っていて、初めて聞くような感覚さえ少し覚えたBMV227 (Jesu, meine Freude)。さらに、個人的に好みの演奏にあまり出会えないBMV228 (Fürchte dich nicht) もかなり良い演奏に出会えた。終曲に配置されたBMV230 (Lobet den Herrn alle Heiden) も華やかにエンディングを飾っており、この曲をラストに聴くのも悪くないなと感じた。今後も愛聴していく一枚になりそう。


Johann Sebastian Bach: Six Motets
Ottawa Bach Choir, Lisette Canton
2023 Atma Classique (ACD22836)
Links: hmv, presto

Johann Sebastian Bach - Six Motets

Johann Sebastian Bach - Six Motets

  • Ottawa Bach Choir, Lisette Canton, Jean-Christophe Lizotte, Reuven Rothman, Jonathan Oldengarm, Matthew Larkin & Lucas Harris
  • クラシック
  • ¥1935
★★★★★