What Didn't Kill Us

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Upheld by Stillness / ORA

個人的な趣味で始めた「ルネサンスシリーズ」の第3回。今回はバードの「5声のためのミサ」を目当てに、スティレ・アンティコと並んで気になっていた声楽アンサンブル ORA の「ルネサンスの至宝とその反映」シリーズ第1弾「Upheld by Stillness」を聴いた。前回→

アルバムは、フィリップ・デ・モンテが作曲してバードに送った「バビロンの流れのほとりで Super flumina Babylonis」と、それにバードが答える形で翌年に作曲された「われらはいかに主の歌を歌わん Quomodo cantabimus」から始まる。正直なことを言ってしまえば、この2作に一番惹きつけられたかもしれない。

このルネサンス期の「コラボレーション」に続いて、バードの「5声のためのミサ」とその各楽章に基づいた5つの作品、さらにバード「Ave verum Corpus」とそれに基づいた作品で構成される。ガッツリと現代の合唱作品が入っているので純粋にルネサンスだけを聴くアルバムではないが、現代合唱と並べることでルネサンスの魅力がより際立つようにも思われた。

ルネサンス作品は複雑に絡み合っているようで決してガチャガチャしないのが良い。フランシス・ポットの Laudate Dominum を聴きながら特に思った(もちろんそのガチャガチャ感はエキサイティングな魅力にもなるのだが)。

特に違いが明確だったのは Kyrie。バードの Kyrie はかなりの短編ながら、純朴なハーモニーと旋律が印象に残る一作。パヌフニク Kyrie after Byrd は同じミサのテキストとバードとよく似たモチーフを使いながらも半音階的な強烈な響きの作品に仕上がっている。Ave verum corpus はウィリアムズによる重厚な応答作を聴くとこれも良いなとは思うのだが、「薄いからこその美しさ」というのもあるんだなと思う。

このように比較してみると、自分は結構ルネサンス作品が(少なくともバードの作品が)好きなんだなと思えたし、敷居が高いと勝手に思っていたけれど、むしろキャッチーさもあって「誰にでも開かれた」音楽のように思えた1

ORA のシリーズはもう数枚あるので一通り聴いてみたい。


Upheld by Stillness: Renaissance gems and their reflections - Volume 1: Byrd
ORA, Suzi Digby (artistic director and conductor)
2016 / Harmonia Mundi: HMW906102
参考: Presto, musicweb, eclassical

★★★★★(2024/6/7)


  1. なお、念のため書いておくと、現代合唱の作品が全編通して複雑だったわけではないし、現代曲は「広い選択肢による可能性の豊かさ」にこそ面白さがあるんだろうと思う。バードの作品を彷彿とさせるような美しさも出そうと思えば出せるが、それ以外の選択肢も多く持っているから、様々な選択肢を駆使した表現ができるものなのだと思う。表題曲でもあるパーク作曲「Upheld by Stillness」は現代合唱作品ながら定期的にバードっぽさが顔を出すから侮れない。決して現代合唱が「悪い」という話ではないし、二項対立的に捉えられるものでもない。