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Sanctissima / ORA Singers

ORA Singers によるアルバム「Sanctissima: 聖母マリアの被昇天の祝日のための晩祷と祝祷」は伝統的な聖歌(plainchant)、関連するルネサンス期および現代の合唱曲を組み合わせて「晩祷(vespers)」と「祝祷(benediction)」として構成した二枚組の作品。

ブックレットに記されているスージー・ディグビーの言葉を借りると次のように説明できる。

歴史的な出来事をそのように再現するものではなく、聖母被昇天のために行われるかもしれない晩祷と祝祷の想像上の構成物です。

Not a reconstruction of a historical event as such, but rather a fantasy construction of a Vespers and Benediction service that might be performed in honour of the Assumption of the Virgin Mary.

そんなことを言われても、晩祷にも祝祷にも参加したことがない、なんなら教会にも行ったことがないような人間なので正直分からないことだらけなのだが、面白いアルバムではあった。

まず鐘が鳴って、ルネサンスのパレストリーナ Assumpta est Maria から「晩祷」が始まる。続いて、伝統的な聖歌(ユニゾンによる演奏)をブリッジとモチーフにしながら(後者はアルバムで使われている言葉を借りれば「反映 reflection」させて)、現代合唱が順に演奏される。聖歌を挟んで各曲が並ぶのが ORA Singers のアルバムらしい構成だし、演奏される現代曲の個性の豊かさには驚かされる。

たとえば、最初に登場するベドナル作曲 Assumpta est Maria は少しジャズっぽい香りもするオシャレな一曲であり、いくつかの聖歌を経て次に登場する In Homeward Flight や後半に登場するマクミラン作曲 Ave Maris Stella はベクトルが全く異なるが、唯一無二の美しさがあった。聖歌的な響きの冒頭からダイナミックな現代曲へ姿を変えていくポーター作曲 Pulchra es et decora はこのアルバムの趣旨に最も合っていたような気がする。

さらに「祝祷」(M31〜)は、ルネサンス期のゲレーロ Ave Virgo sanctissima とその「反映」であるマルタン Sanctissima や、サンドストレムによる現代作品などを経て、最後にはルネサンス期のアネーリオの Ave Regina calorum が華やかに演奏され、鐘の音によって終わる。


Sanctissima: Vespers and Benediction For the Feast of the Assumption of the Virgin Mary
ORA Singers, Suzi Digby
2023 (Harmonia Mundi: HMM90533435)
参考: Presto, eclassical

★★★★☆(2024/6/9)