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Stella / ORA Singers

ルネサンス期の楽曲を聴こうという「ルネサンスシリーズ」の第4回目として、ORA Singers による「ルネサンスの至宝とその反映」シリーズの第3弾「Stella」を聴いた。

Stella

Stella

  • ORA & スージー・ディグビー
  • クラシック
  • ¥1681

このアルバムは16世紀のスペインの作曲家トマス・ルイス・デ・ビクトリア(1548 - 1611)による6つの作品と、現代作曲家がそれらにインスピレーションを受けて作曲した6つの作品を取り上げている。

ビクトリアの作品はジョスカンなどと比べると対位法的にシンプルな印象。基本がシンプルだからこそ、ときどき入っている細かいパッセージなどがいいスパイスになっているような印象も受ける。全体を通して、ORA Singers による流れるような演奏が素晴らしい。特に8声の「Ave Maria」がフレージングからハーモニーまでいきなりバッチリと決まった至高の演奏だった。音楽の流れ方という点では「Ave Regina caelorum」や「Alma redemptoris Mater」が爽やかで好みの演奏だった。

本アルバムに収められたビクトリアの作品の中で唯一のモテットである「Vidi speciosam」は確かに聴いていて他と少し異なる質感のある作品。このあたりの違いがちゃんと理解できるようになるにはまだ自分の力が足りない。

現代作曲家による作品群にも感動的な作品が並んでいる。どのようにビクトリアをオマージュしているのかについて確実なことは言えないけれど、同じテクストを用いたり、旋律の一部を引用したりしながら、「音楽の手ざわり」を受け継いでいることは確かに感じられる。

トッド「Vidi Speciosam」はビクトリアとかなり毛色が違うけれど、このアルバムの現代曲の中でも圧倒的な美しさを誇っていた。ワクナー「Regina Caeli」はビクトリアと異なるアプローチでテキストのリズムを活かしたエキサイティングな作品で、現代合唱曲の広い可能性を感じられる。キャンプキン「Ave Regina cælorum」は個人的に最も感動的だった。最終盤のソプラノによる装飾音形など、現代音楽ってこういう良さがあるよなぁと思いながら聴いた。


Stella: Renaissance Gems and Their Reflections, Vol. 3
Ora Singers, Suzi Digby
2022 (Harmonia Mundi: HMM905341)
参考: Presto, eclassical, musicweb
★★★★★(2024/6/8)