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バラエティきろく / 2024年6月

2024年6月のバラエティ番組から特に印象的だったものを振り返るブログ。今回も5番組の印象的な回を選んだ(放送日順に記載)。ネタバレあり

分析がウザいという某芸人の声がよぎるが、それでも自分の感じた面白さや感じたものを可能な限り言語化するよう努めた。今月は書いていて熱が入ってしまう番組が多く、感想も全体的に長くなっている。

1. 耳の穴かっぽじって聞け!(6/4)

【テレビ論】とろサーモン久保田×ウエストランド井口×濱田祐太郎、毒舌王者3人が本音で斬り込む!バラエティ番組に多様性はある?

個人的な好みの番組が始まってもどんどん終わってしまう『バラバラ大作戦』の中で、いま一番まじめに追いかけているのが、とろサーモン久保田とウエストランド井口によるトークバラエティ『耳の穴かっぽじって聞け!』である。6月は永野がホンネを明かして「暮らし系芸人」というパワーワードを残した回(6/11)も印象に残っているが、ここでは R-1 チャンピオンの濱田祐太郎が出演した 6/4 放送回のことを書きたい。

多様性(ダイバーシティ)、もっと言えば SDGs やら D&I やらが謳われる世の中にもかかわらずバラエティ番組に障害を持った芸人が出てくることはほとんどない。それについて問う形で濱田祐太郎が登場した。

この回の濱田祐太郎はすごかった。障害者が自らの属性を武器にして笑いをとっていくこともできること、それ以外で笑いをとること、どちらもできることを見せつける圧倒的な文才。逃走中に出たい、ハンターとして出たい、暗闇ステージとかあったら最強だと思うという提案のキレ味。濱田祐太郎にしか言えないキラーフレーズも多く、「眼中にない」なんてこの人が言ったら最強のパンチライン。濱田祐太郎は間違いなく面白い。実力があるから「忖度や先入観にとらわれずどんどん出してほしい」という提案にもかなりの説得力がある。

ところで、特定の属性や特徴を笑いに結びつけることには元々微妙で複雑な関係があるが、最近は(体感としては「保毛尾田保毛男」騒動あたりから)否定的な方向にだいぶ傾いているのでは?と感じることが多い。良いか悪いかの判断は避けておくが、自虐的なハゲネタも「差別的」と言われたり嫌悪感を抱かれるような時代を迎えつつある。おバカを笑う流れも以前よりだいぶ減った印象がある。内容が精査されることなく「笑いにする=嘲笑」と解釈されることが増えている気がする。みんながそう思うようになったのかは分からないが、「目に止まる形で」そのような批判がなされることがネット上では非常に多い。定量的な観測に基づくものではなく、あくまで主観的な印象に過ぎないけれど。

属性や特徴は武器になり得るし、いじることはその芸人やタレントの持っている武器を引き出す行為になり得るが、それでも潜在的な「傷つく人」のために自粛するという流れはおそらく今後も止まらないだろう。残念ながら「誰も傷つけない笑い」幻想は根強いらしい。もちろん「傷つき」に敏感になることを必ずしも全否定はしないが、気になっているのはマイノリティ属性や特徴を武器としてきた人たち、もっと言えば「弱者」から武器を奪うことで、結果的に強者だけが生き残って D&I に逆行し得るのではないかということだ。

属性や特徴を笑うということに対する価値観が今後どのようになっていくかはもちろん分からないが、「傷つく」云々で武器を完全に奪われてしまう前に、色々な属性や特徴を持った面白い人たちがバラエティに出てくるのを見たいなとは思う。どこからが嘲笑なのかというのも「番組に出してみなきゃ分からない」し、もしかしたら「許される範疇で他人を傷つける笑い」のようなものが開拓できるかもしれない。実はこの番組にもそういうことを期待していたりする。

2. 有吉弘行の脱法TV(6/8)

フジテレビの原田和実が企画・演出を手がけた「テレビの抜け穴を探すギリギリ合法バラエティ」番組の第二弾。感想ブログですでに好き勝手なことを書いているが、改めて考えても6月ナンバーワンの面白さだったと思う。細かい内容については既に書いたので、ここではもう一回この番組の大きな理念の話を書いてみたい。

民放onlineに掲載されている香月孝史氏が執筆した記事「放送の『自由』と『自律』ー批判を対立で終わらせず『育て合う』ー」の中では放送倫理・番組向上機構(BPO)の役目について触れる中でこんなことが書かれている。

... 行われるべきは、発信されたコンテンツが持ちうるあやうさを省みつつ、投じられた問いを取捨選択してフィードバックするプロセスであり、"作り手側対クレームをつける側"のような素朴な対立構図を設定することではない。その構図で捉えられた途端に、コンテンツを洗練させるための問いは、窮屈さをもたらす規制として解釈され、それらをいかにやり過ごすか、あるいは拒否するかという発想に結びついてしまう。それは意見・立場の相違や葛藤というよりも、ディスコミュニケーションに近いものになる。(出典:放送の「自由」と「自律」ー批判を対立で終わらせず「育て合う」ー 民放online 2024/5/7 掲載)

この文章を読んで、『有吉弘行の脱法TV』はまさにコンプライアンスを絶対的な棍棒のようにみなして素朴な対立構図に乗っかるような番組ではなかったんだなと思う。つまり、コンプライアンスをやり過ごすこと、あるいはコンプライアンスを拒否することを志向するのではなく、コンプライアンスと本気で向き合い、尊重した上で、可能な限り対等な「コミュニケーション」を試みた番組だったと言えよう。

コンプライアンスに応答するような脱法案を考え出して、コンプライアンス委員会からフィードバックを受ける。感想ブログにも書いたことだが、有吉弘行をはじめとした演者の力もあって、その過程(特に「失敗」)を「面白く」見せることにも成功している。失敗を笑うことは挑戦し続けやすくなることにもつながるだろう。これぞまさにプロの仕事だ。素人によるあまりにもお寒い「脱法」が話題になってしまった今だからこそ、プロの仕事の価値をより強く感じている(脚注で追記1)。

3. ゴッドタン(6/8)

【第5回みなみかわの相談相手オーディション】
とんねるずは「台本」通りに進行しないタレントだとよく言われていたことを急に思い出す。今やったらパワハラと言われてしまうであろう内容も多かったが、若手芸人のネタを潰す代わりに他の番組では出せない面白さを引き出したり、ライブ感のある面白さを引き出したりすることに長けていた。そういうものを見て育ったから、予定調和が崩れていく瞬間が面白くて仕方ないし、芸人が並ぶバラエティ番組ではついついそういうものを観たいと思ってしまう。

『ゴッドタン』の 6/8 放送回はまさに予定調和が崩れて、元の企画からどんどん逸れていった先に面白さがあるという令和には稀有な回となっていた。なぜか、みなみかわの相談相手候補としてやってきたオズワルド伊藤ときしたかの高野が口喧嘩する流れになった。伊藤と高野は流れのままにストレートボールを投げ合ってヒートアップしていくが、みなみかわは自分に球が来ても上手く避けるし、特に高野をどんどん焚き付けるという完全に「悪い」立ち回りをしていたのが面白かった。『ゴッドタン』は予定調和が崩れる面白さをちゃんと出せる番組だと思う。

4. サーヤ × くるま みんなテレビ(6/21)

ラランドのサーヤと令和ロマンの高比良くるまがスカンクの「中の人」となってMCを務めた『みんなテレビ』。総合演出には『博士ちゃん』や『家事ヤロウ!!!』も手がけている米田裕一の名前が。「非教育的教育番組」とか「子どもに見せられない子ども番組」というキャッチコピーがつけられていて、雰囲気は完全に Eテレを模しているが、ゴリゴリの大人向けお笑い番組。こういうパロディ系の番組には目がないのだが、各企画も非常に充実していた。

ファッションチェック風に職務質問されやすい人の特徴が解説される「職務質問コーデ」、太パパ・細パパ・月極パパを組み合わせて月80万円稼ぐために何回パパと会う必要があるかを計算する「パパ活算」、まともに喧嘩をしたことがない二人の男性による「はじめてのストリートファイト」、俳優の西岡德馬とその孫をキャスティングし、ChatGPT-4o による作文で(おじいちゃん側もそれを知った上で)泣くかを検証した「AI 作文で泣いてくれるかな?」、う大先生を講師に迎えて教科書に載っているバッハの顔に落書きをした作品を寸評する「教科書の偉人に落書きしよう」、MC 2人が参加したクセありの札が並ぶ「子ども絶望カルタ」、その場しのぎで気軽に身内を殺してしまった(嘘をついた)人たちに話を聞く街頭インタビュー企画「人を殺したことありますか?」というラインナップ。

こうして並べてみるとめちゃくちゃ気合の入った構成であるし、正直に言ってハズレはない。企画としてはAI 作文が一番秀逸だったかなと思った。もっと濃い味の演出をつけると『水曜日のダウンタウン』っぽくなりそう。また、企画の趣旨として『有吉弘行の脱法TV』と方向性は似たものを感じるが、比べてしまうと企画の切れ味が弱いというのは否めない(それでも地上波テレビの中でみれば挑戦的な内容)。地味に一番笑ったのはバッハ落書きの後半。う大先生が「これはアイドルの風刺なんじゃないか」と解釈し始めるところが特に印象に残っている。

サーヤ & くるまで「みんなのうた」風に歌う「みっちゃん」「世界はいいね」の二曲も良かった。なんなら企画よりもこっちを推したい。「世界はいいね」は世界の素晴らしさを歌っているわけではなく、X(Twitter)で日々行われているしょうもない喧嘩をそのまま持ってきたような歌である。「いいね」は X を指した言葉だろう。「男社会」「アップデート」「表現の自由」「欧米の常識」「トーンポリシング」「情弱」と、既視感しかない言葉を並べて喧嘩して、「世界はいいね〜」なんて歌われたら正直面白すぎる。親ガチャソング「みっちゃん」は、後半のバトルのサーヤの煽りスキルの高さが印象的で、「他責思考」という言葉のあまりの語呂の良さに痺れた。

第二弾も期待したい番組。

5. アメトーーク!(6/27)

【あれから5年…激動の同期芸人】
キングコング、南キャン山里、ノンスタ、ノブコブ、ダイアン、とろサーモン久保田、という最強の座組と言っても過言ではないくらいのメンツが揃った回。それでも全員集合ではないところに層の厚さを感じる(一応書いておくと『マルコポロリ』の 6/16 放送「天素」回の集まりの悪さと比べたらよっぽど集まってるなとは思った)。

個人的にプペルあたりから西野のことがそんなに好きじゃないんだけど、今回はプペル西野がちゃんと芸人やってて面白かったし、この座組で中心にいるのもさすがだなと。単に実力者が揃うだけでも絶対にこうはならないだろうし、この同期メンツだからこそ見られる面白さ。トークのスピード感もすごいし、内容も充実しているし、言葉のキレも、何から何まですごい。

山ちゃんが週刊誌系の記者を「妄想小説家のクズ」と言うところとか、プペル西野の「宇宙はあんまり興味がない」とか、印象的なところはたくさんあるけど、一番はやっぱり粗品の名前が出てきた流れでのホトちゃんの「アメトーークは俺が作った」発言。これが引き出されただけでも今の『アメトーーク』の方が面白いと思っちゃうんよな。

次点(向上委員会 / イワクラ吉住 / 何かオモ / さらば青春の光 YouTube / ラヴィット など)

『さんまのお笑い向上委員会』(6/22)の永野 vs 陣内の喧嘩は他の媒体で色んなコメントが出てくるなどかなりの余韻を残している。「本気と TV の狭間に着地」してしまった変なくだり。あれが本気の喧嘩だったのか、あくまで「バラエティ」だったのかという論争に与するつもりはないが、永野がゴリゴリに反抗してくるのをみんなが予期する中、永野が負け顔をして「すいません、お笑いの学校出てないんで…」と言ったところは最高だったな。同じフレーズを『週刊さんまとマツコ』(6/30)でも使っていたな。永野が定期的に擦ってる日テレで俳優にビンタして出禁になった話とか、冠番組『永野に絶対来ないシゴト』(6/28)で錦鯉の渡辺から「永野さんはメンタルがチワワだから」と言われていたのとか、そういうあれこれを念頭に置いて見ると、『向上委員会』の永野がより面白く見えてくるところはある。永野については『全力!脱力タイムズ』(6/20)でいつものごとく騙されてふざけた態度をとるノンスタ井上を刺すだけでなく、その対比として呼ばれているTKO木本もしっかり刺していくところが面白かった。「配信王」なんて呼ばれてるけど、今月は地上波でも何回も永野を見たし、その度にしっかり印象を残しているのが強すぎる。

『イワクラと吉住の番組」(6/4)は番組のカラーに明らかに合っていない人気企画「クイズ ふまんだらけ」の第三弾。回を重ねるごとにゲストのキャスティングがそっちに寄っていて、今回はウエストランド井口に加えて、永野と相席スタート山添が登場。クイズも「そっち寄り」な空気が透けて見えていて、それを敏感に感じ取ったであろうシーンもチラホラ。演者の力でちゃんと面白くはなっているんだけど、これ以上「狙う」とダメになりそうな印象。

『何か“オモシロいコト”ないの?』(6/17)は「女優がツッコミを受けまくるのって何かオモシロい?」の第三弾。吉岡里帆、有村架純に続いて登場したのは西野七瀬だった。気づいたらこのメンバーの中に並んでもそこまで違和感のない人になっている。とはいえ、吉岡里帆とか有村架純と比べるとこういう仕事をするイメージがない。楽しそうにジョイマンをやってる姿を見ながら、太った鳩を見るのが好きと言って泣いていた人が(いつの話をしてるんだ)今やここまで来たということに泣けてくる。

さらば青春の光 Official Youtube Channel の6月の企画は豊作揃いだったので、全部について感想を書きたいくらいだが、今年一番の盛り上がりを見せた「馬狼」のフォーマットを使った企画「ヌキ狼」(6/8)は、馬狼と違った意味で盛り上がるさらばらしい内容だった。ブクロが帰ってきたときの顔が素晴らしすぎて、そこだけでも何度も見れる。今回は、グレードダウン企画「1人ヌキ狼」(6/22)も思ったよりクオリティが高くて良かった。また、ひょうろくの(架空の)マネージャー星に達成感を味合わせたいというドッキリ企画(6/1)もひょうろくの面白さが存分に引き出されていて面白かった。

6月の『ラヴィット』は、桶ット卓球のKATUJI、みなみかわのセロリ × システマ、同じくみなみかわのオードリー・タンなどが印象に残っているが、バラエティ的な盛り上がりが印象的だったのは、オープニングのみでぶち抜き2時間、相席スタート山添の誕生日会を放送した 6/11 の放送回。クッキングパパの主題歌を歌っている YASU さんが登場したときに発狂して倒れ込むシーンが印象的。あと、元相方から「努力家で義理深くて熱くてまっすぐな男」とか「レジ袋をもらったのも見たことがない環境に優しい男」と言われたのを見てから、『水曜日のダウンタウン』の「電気イスゲーム」とか今までの山添の言動を見返すと別の意味で笑っちゃう。今回は書ききれなかったけど、この電気イスゲームもなかなか秀逸な企画だった。


  1. 【追記】6月下旬ごろから東京都知事選について法の抜け穴を利用して選挙で迷惑行為に勤しむ「寒い」人たちの存在が話題となっている。今この文章を書きながら思うのは、抜け穴を探す行為が全面的に悪いわけではないことをちゃんとこの番組は示していたということだ。クリエイティブに面白く「脱法」するためのエッセンスがこの番組にはきちんと詰め込まれていたと思う。とはいえ、法の抜け穴を見つけて選挙で迷惑行為を繰り返すことと、この番組のようなクリエイティブの間にある差を説明するのはそこまで簡単なことではない。都知事選には昔から「おもしろ泡沫候補」がいたわけで、それと何が違うのかということを明確に説明するのも難しい。だが、難しいけど確かに違う。そして、その違いこそが一番大事なことのはずだ。