What Didn't Kill Us

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Entartete Musik / Vlaams Radiokoor

1930年代のドイツにおいて、ジャズ、黒人音楽、新ウィーン楽派の無調音楽、そしてユダヤ人作曲家の音楽は、ナチによって「退廃音楽」として排斥された。本アルバムはそのような退廃音楽を集めた一枚となっている。

Entartete Musik

Entartete Musik

  • Vlaams Radiokoor, Bart van Reyn & Estelle Lefort
  • クラシック
  • ¥1528

全体としては、フラマン放送合唱団(バルト・ファン・レイン指揮)の演奏による合唱作品を中心に、エステール・ルフォールによるソプラノ独唱作品(2, 4, 5, 9)やピアノソロ曲など別の編成の作品も収められた、バラエティ豊かな一枚である。

通して聴いてみれば、マーラーが強いなぁとは思う。『子どもの不思議な角笛』より Ⅲ. 原光 に始まり、『5つの歌曲』より Ⅰ. 静かな街 を経て、『交響曲第5番』より夕映えに(アダージェット) へ。全てクリトゥス・ゴットヴァルト編曲。どの編曲も圧倒的な仕上がりであり、フラマン放送合唱団の柔和な響きがよく合っている。

言い方は難しいが、「退廃音楽」として排斥されたという歴史的事実を除けば、音楽的に統一的なテーマなどの共通性を見出すのは難しく、実質的に「オムニバス作品集」という趣の一枚ではある。

裏を返せば、これだけ多様な音楽が独裁的な理由で排斥されたということであり、中には「ユダヤ人」のエルヴィン・シュルホフ(M3. フォックストロット)やヴィクトル・ウルマン(M9. 白樺)をはじめ、収容所で命を落とした作曲家の作品も収められていることは特に重要である。本アルバムからある種の反戦精神を読み取ることもできるだろう。頭を働かせずに目の前の音楽に耳を傾けるという楽しみ方もできるし、頭を働かせて歴史的な悲劇について思案しながら聴くこともできる一枚だろう。


Entartete Musik
Vlaams Radiokoor, Bart Van Reyn, Estelle Lefort, Brussels Philharmonic Soloists, Koenraad Sterckx, Didier Poskin
2023 (Antarctica: AR051)
Links: Presto, HMV, Program Notes (pdf)
★★★☆☆(2024/6/24)