2024年上半期に聴いた J-POP 楽曲の中から特に印象に残っているマイベストをまとめた。客観的にハイレベルな作品というよりも、主観的にこの曲と出会えて良かったなと思える作品を中心に選んだ。
J-POP【新譜】
1. 伊藤沙莉 & ハンバート ハンバート「なくもんか」
アルバム『いきものがかりmeets』は若手の実力派を中心とした12組のアーティストがいきものがかりの(特に2010年頃までの)名曲をカバーした一枚だった。全体を通して、いきものがかりは(私たちの)「青春」だったんだなと思わされる一枚だったが、特に刺さったのが「なくもんか」だった。
吉岡聖恵が明るい歌声でまっすぐに歌い上げる原曲も好きだが、伊藤沙莉の唯一無二の声とハンバート ハンバートの優しさ溢れるコーラスで生まれ変わった「なくもんか」は言葉の表現が丁寧で、歌の説得力が大きく、あまりにも良すぎて泣いてしまったくらい。安易に使いたくはない言葉だが、原曲よりも好きになってしまったかもしれない。この歌に出会えたから今年どうにか生きていられてると割と本気で思っている。
2. 小沢健二「Noize」
マヒトゥ・ザ・ピーポーをゲストボーカルに迎えたオザケンの新作が上半期一番のヘビロテソングだった。かつて「流動体について」では意思という内在的なものが変化の起点として歌われていたが、それが本作では「ノイズがぼくを変えてゆく」というようにある種の外在的なものが変化の起点として歌われている。このこと自体、小沢健二が、人間という生き物が、あるいはその思考や価値観が、「流動体」であることを象徴しているようにも思える。
そんな前提に立ったとき、2024年もう一つの新曲で、スチャダラパーとタッグを組んだ30年ぶりの作品「ぶぎ・ばく・べいびー」も単なる懐古趣味で「昭和 must go on!」と歌ってるわけではなく、ノイズを受けて変化し続ける「流動体」たる人間がふと自らの中にある「変わらなさ」に気づく曲として位置付けられるのではないか、なんて思う。坂元裕二が流動体たる人間の中に「消えない」ものを描き続けているように1。
ついでに、2024年上半期の話題書であった三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でも、読書が「ノイズ」であることを肯定的に論じていたことも付言しておきたい。
3. TOMOO「あわいに」
ドラマ『ソロ活女子のススメ4』の主題歌。色々とあってドラマなどがあまり見れなくなってしまった上半期だったが、その中でもどうにか見ることができていた作品の一つがこのドラマ。
また、TOMOO の2024年上半期リリースの新曲については、愛とは何かを与えることだけでなく受け取ることにも表れる共創的なものであることを歌った「Present」や、「なくもんか」と並んで『いきものがかりmeets』に収録された「茜色の約束」のカバーもヘビロテしたが、この「あわいに」の圧倒的な爽やかさが特に良かったかなと思っている。
『ソロ活女子のススメ』は一人で何かをすることを単に推すドラマというよりは、一期一会の(人間も含めた)何かとの出会いの尊さを描いたドラマであるが、それを的確に見抜いた主題歌だと感じられる。サウンドも洗練されているし、何より(主題歌として初めて聴いたときに)この歌詞の一節が最高だと思った。
地図とは違う道も
地図通りの道でも
小さな景色を 拾って集めて
それは塗り絵みたいに
街に色が
TOMOO「あわいに」
4. マカロニえんぴつ「月へ行こう」
EP「ぼくらの涙なら空に埋めよう」収録。はじめて聴いたときに一目惚れした曲で、最新のポップス事情に精通しているわけではないが、上半期に聴いた新譜の中ではサウンド面でもリリック面でもトップクラスのクオリティではないかと(勝手に)思っている。独特の浮遊感と開放感とさびしさが共存した名曲だと思っている。
1サビ手前に「強い心より 軽い言葉を持って」という歌詞がある。この曲のキモはここに表れているんじゃないかと思う。月というとてつもなくスケールが大きくて遠くに感じられる場所へ向かって飛び立つときでも、いざ個人の目の前にあるのは小さな小さな日常である。その日常の中で、他人から少し背中を押されたりすることで、あいまいで不安定な心のままに人は動き出す。風に吹かれて、ふわっと飛び立っていくような。そんな様子を思い浮かべた。
名前のない優しさを不揃いの羽に巻いて
分かり合ったつもりでいていいのが 愛かも知れん
きみのいない空の飛び方がずっとわからないんだ
マカロニえんぴつ「月へ行こう」
5. スカート「波のない夏 (feat. adieu)」
2024年上半期はスカート(澤部渡)の新曲が二つリリースされた。「君はきっとずっと知らない」は明らかにスカートらしいサウンドでこれもかなり好きだったが、個人的には adieu がボーカルに加わった「波のない夏」をより推したい。聴けば聴くほど名曲。映画を全く見てないので的外れなコメントかもしれないけど、青春ってこういう「音」だよなぁって思う。「私は変われないままここに座り 静かに今日が終わるのを待ってた」という言葉がやけに沁みる。
次点
- suis from ヨルシカ「若者のすべて」
- odol「不思議」
- にしな「It's a piece of cake」
- ずっと真夜中でいいのに。「Blues in the Closet」
- 藤原さくら「初恋のにおい」
アルバム(おまけ)
普通の音楽ファンならば、アルバム単位で聴いてアルバムのベストについて書くものなんだろうと思うが、このブログを書くにあたって確認してみるとアルバムとしてちゃんと聴いたものがあまりにも少なすぎたため、今回はおまけ扱いで記載することにした。下半期はここをもう少し充実させたいな。
上半期に聴いたアルバムの中でランクづけをするならば、柴田聡子『Your Favorite Things』がダントツ。充実したサウンド、日本語表現の巧みさ、テキストの上質さ、どこを見ても圧倒的なクオリティだったと思う。
次点には折坂悠太『呪文』を挙げたい。惚れ惚れするようなソングライティング。洗練されたサウンドの中で歌われる折坂悠太らしい実直な歌詞も良かったし、インスト曲「信濃路」も良い味を出していた。
J-POP【旧譜】
ここ最近少し離れていたジャンルの曲が妙に刺さってそれをよく聴いていた上半期だった。
まず、M-1グランプリの関連で知った日食なつこ「ログマロープ」、昨年末の紅白で久々に聴いてから個人的にリバイバルしているエレファントカシマシ「俺たちの明日」、その他、経緯は忘れたけどウルフルズ「暴れだす」とかサンボマスター「可能性」「輝きだして走ってく」を特に聴いた。
前述した小沢健二とのコラボでマヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)という存在を知って、色々と関連曲を聴いたが、「Absolutely Imagination」を一番よく聴いたので、この上半期はこういう直球めのリリックのロック曲が好みだったんだろうなと思う。好みが10年くらい前と似ていて、一周したんだなぁという感慨がある。
一方で、これまで男性ボーカルばかりを聴いてきた自分にしては珍しく、女性ボーカルを少し開拓した年でもあった。TOMOO「Super Ball」や柴田聡子「雑感」、にしな「青藍遊泳」などに加え、最近はカネコアヤノにハマっていて『タオルケットは穏やかな』収録の「気分」、『よすが』収録の「孤独と祈り」などもよく聴いている。サブスクだと聴いたことのないアーティストにも手軽に手を伸ばしやすいのだが、なかなか深く聴きこむところまで行っていないなと反省。
下半期の目標はアルバムをもっと聴くことと、このブログを継続することの二点としておく。
- 小沢健二の話のときになぜかすぐ坂元裕二の話をしたくなる癖がある。↩