今回はルートヴィヒ・ダーザーの二作のミサを収録したウエルガス・アンサンブル(パウル・ヴァン・ネーヴェル指揮)の一枚。昨日のチンクエチェントと連続でのダーザーである。
前半の6声ミサ『万物の連なりを越えて Missa Preter rerum seriem』は、ジョスカンの同名モテットをベースにしたパロディ・ミサ作品。余談だが、フランドル楽派のチプリアーノ・デ・ローレによる同曲のパロディ・ミサも存在するらしい。元のモテットは本アルバムには収録されていなかったが、最近聴いたジェズアルド・シックスのアルバムに入っていたので聴き直してみた。細かく精査して聴いたわけではないが、何となく聴いているだけでも同じ(ような)フレーズはチラホラ聞こえてくる。
中低声が充実した編成のため6声が tutti で奏でる際の分厚いハーモニーは耳に残るが、声部が減ったときにみられる静謐な美しさもかなり印象に残った。たとえば Credo の Crucifixus から Et in Spiritum Sanctum にかけての女声アンサンブル→男声アンサンブルは特に印象的だった。ただ、静謐な美しさという点では6声の部分も多いものの終曲の Agnus dei がズバ抜けて良かった。トップレベルに好きな Agnus dei かもしれない。
後半に収められた4声のミサ『ただ死ぬのを待つ以外 Missa Fors seullement』は、ダーザーの生きていた時代に流通していたシャンソンに由来する題であり、そのシャンソンのモチーフをいくつか使っているらしい。前半とは全く異なる味わいの作品で、あえて言うと『万物の連なりを越えて』が重厚感のミサだったのに対し、『ただ死ぬのを待つ以外』は透明感のミサである。凝った対位法もあまりみられず、明快なつくりとなっているが、その分かなり繊細な作品という感じがする。Sanctus は Osanna のところで急な細かいパッセージがみられるのが面白いなと思った。終曲の Agnus dei はこちらも静謐な名曲。個人的には『万物の連なりを越えて』に軍配が上がるが、旋律の美しさはこちらの方が上かもしれない。
Ludwig Daser: Polyphonic Masses
Huelgas-Ensemble (early music ensemble)
Paul Van Nevel
2023 (Deutsche HM: 19658793332)
Links: Presto, HMV, CPDL (万物), Booklet (pdf)
★★★★☆(2024/7/10)