What Didn't Kill Us

娯楽を借りた生存記録

Beauty for Ashes / The Elysian Singers

イギリスの室内合唱団エリジアン・シンガーズ(サム・ロートン指揮)による一枚は、イギリスの有名な作曲家の未録音作品集。だいたいこの手のアルバムは聞き流しながら印象的なところを書いていくのだが、今回は一曲一曲をちゃんと聴いてみた。

サラ・マクドナルド「Crux fidelis」は何度も反復される Crux fidelis というフレーズを軸にしながら、エモーショナルな盛り上がりを見せるところが感動的だった。シェリル・フランシス=ホード「Psalm 6」はより現代音楽的な強烈さがある。美しいソロから始まるが、かなり痛烈な音楽へと展開していくのが印象に残っている。イアン・スティーヴンス『Salisbury Service』の2曲はオルガンが音楽に強い彩りを加えており、不協和音もかなりみられるものの全体としては明るい祝賀的な音楽。アリソン・ウィリス「I Sing of a Maiden」はこの並びで聴くとだいぶシンプルな印象を受ける。声部間の絡み合いが美しい一曲だった。

ロクサンナ・パヌフニク「Hymn to St Alfege」は強烈さのあるハーモニーが特徴的であり、それが終盤の方で解決を迎えたところの美しさが圧巻だった。続いては今回の作曲者の中でも一番の若手オワイン・パークの「Beati quorum via」。どこか伝統的な趣を残しながら強烈な味わいの現代音楽的な和声を特徴としている。さらに、ジュディス・ビンガム「The Pilgrimes Travels」は比較的素朴な響きから始まるが、最終的にかなり複雑な音楽へ。デイヴィッド・ランカスター「feathers」はソプラノ独唱の美しさと、安定しない和声によって独特の浮遊感を纏っていた。

ジュディス・ウィアー「Leaf from Leaf Christ Knows」はキラキラとしたオルガンに導かれて高貴な味わいの合唱に酔いしれる。続くオーウェン・リーチ「The Lily of Heaven」はウィアーとはまた少し違った美しさを誇る。密集した不協和音もみられるが、字義通り「天にも昇るような」心地のハーモニーが楽しめる。二言語が同時に聞こえてくるという面白さも。表題となっているボブ・チルコット「Beauty for Ashes」は模倣的なフレーズを多用し、スケール感のある荘厳な音響世界を描く。ポール・エドワーズ「God be in my head」はこのアルバムを優しく包むような、しかし温かいばかりではなく少しの陰を残すような、そんな魅力のある一曲。このアルバムの中でも一番短く、かなりシンプルな一曲だが、それが最大の持ち味だった。

エリジアン・シンガーズの演奏はところどころ不安定さを感じることはあったが、基本的には十分な上手さの演奏であった。


Beauty for Ashes
The Elysian Singers, Sam Laughton, Mark Brafield (organ)
2024 (Signum: SIGCD797)
Links: Presto, Hyperion, Naxos
★★★☆☆(2024/7/22)

Beauty for Ashes

Beauty for Ashes

  • Mark Brafield, The Elysian Singers & Sam Laughton
  • クラシック
  • ¥1528