新しく聴いた音楽について簡単な記録をつけているブログ。意外にもちゃんと継続できているのでこの調子で。
新譜(2024)
BUMP OF CHICKEN「strawberry」
ドラマ『西園寺さんは家事をしない』が面白い。各話でテーマは異なるが、その中心にあるのは「話しましょう」ということである。価値観の異なる二者が分かり合えないとあきらめてしまうのではなく、全部は分かり合えないとしてもほんの少しでも分かり合えることを信じて、話し続けようとするドラマである。特に第1話では、家事に対する価値観の大きく異なる2人が、そのどちらでもない第三の道を模索するという構図を鮮やかに示していた。
同時にこのドラマは「いなくなってしまった者」が強い存在感を示している。西園寺さんにとっては大学生のときに蒸発した母親が、楠見くんにとっては亡き妻が、それぞれ現在の価値観と深く関わっている。バンプの今回の主題歌を聴いたとき、この「いなくなってしまった者」、そして取り残されてしまった今を生きる者のための歌だと思った。孤独でありながら倶に生きている者たちの歌。もう話すことができない者の面影がナスの焼き方に表れていて、ナスの焼き方に残された想いが現在の楠見くんに届く。そんな物語とこの歌は共鳴している気がした。
ああもしも笑えなくても ただ抱き締めて
今日までの日々を ひとりにしないでBUMP OF CHICKEN「strawberry」
高井息吹『金星の声』
夜に一人で聴きながら、これは棚の一番奥の方にしまっておこうと、しまっておかないと、と思った。
孤独や悲しみは いつの日か 空に溶けるのかな
君は なんていうかな
宝箱は とじたまま
また君と 開けられたらいいな高井息吹「ながれぼし」
MONO NO AWARE & imai「かむかもしかもにどもかも! (imai remix)」
そのまんま早口言葉の曲。あんまり知らないバンドなんだけど、こういう言葉遊びは好き。
ゆず『図鑑』
久々にゆずのアルバムを聴く。not for me となってしまった予感もありながら聴いていった。気になった曲だけ感想。
「伏線回収」は思ったより過去のゆずが匂ってきた。絶妙に(良い意味で)安っぽい感じというか。Love & Peach もサビとかはこんな感じじゃなかったっけ。「花言霊」は意外なテイスト。そもそも花言葉ではなく「言霊」としているところも霊性的なものを匂わせているわけだが「腐葉土」という歌詞から始まるのは正直おぉ、となった。2番のAメロは「不要と」から始まるのも良い。
アルバム唯一の岩沢曲「つぎはぎ」は旋律をパッと聴いたときの(過去の)ゆずっぽさが随一。トラックも古臭くない。表題は北川曲の方が映えるのだが、良くも悪くも、作風が変化してきたのが北川曲で過去の作風を色濃く残してきたのは岩沢曲という大雑把な印象がある。それにしても「つぎはぎ」はど直球でSNSあたりで起きていることを歌っているわけだが、「すぐに寝よう ナイス判断!」で終わるのが洒落ている。
全体的には(歌詞も含め)王道チューンを書くのはひたすら上手くなっているなと思った。その中にさりげなく紛れ込む「花言霊」とか「つぎはぎ」あたりが個人的にはありがたかった。
旧譜(〜2024)
カネコアヤノ『祝祭』
個人的にカネコアヤノを少しずつ遡っている。『祝祭』は2018年のアルバム。パーソナルな感情を吐露したような鋭さのある楽曲が特に多い印象を受けた。中盤から後半にかけて好きだなと思う曲が並んでいて、「ゆくえ」や「カーステレオから」あたりに心を奪われた。夏に聴いていることを差し引いても「サマーバケーション」は良かった。ラストに「祝日」で圧倒的な熱を感じた。やっぱり良いな。
嫌われないように
毎日不安にならないように
不安にならないように
ならないようにしているカネコアヤノ「祝日」
このあたりのリリックのつけ方が異常に上手い。歌唱の熱量という面では『祝祭 ひとりでに』の方が直接的に伝わってきたので、そちらも補完的に聴くのが楽しい。
高井息吹 「Starlight」 「夜明けまえ」
前述した高井息吹の2023年夏リリースのシングルを聴いた。
眠れない夜も
愛していたいんだ
僕らは 幻を生きるんだ高井息吹「Starlight」
1枚のシングルで、たった2曲で、ひとつの夜を語りあげてしまうくらいの充実感があった。
くらいくらい闇も
ぼくのこの手で晴らしたかった
君のその目に映る悲しみもぜんぶ
きっとまた朝が来て 光が差して
埋もれていくよ
夜が明ければ ぼくら忘れてしまうんだ高井息吹「夜明けまえ」
トクマルシューゴ『TOSS』
2016年リリース。最新作の『Song Symbiosis』が割と素朴さを感じさせるものだったのに対し、こちらはだいぶ尖ったアルバムという印象が強い。目の前に映像が浮かんでくるような「Cheese Eye」が特に素晴らしかった。言い方が適切かは分からないがガチャガチャした感じが魅力的な「Taxi」やメロディーに叙情的な味わいのある「Hikageno」もかなり好き。ラストの「Bricolage Music」は様々な音を重ね合わせて構築された、まさに職人仕事という仕上がりの楽曲。一体何種類の音を使っているのだろう。『リトル・フォレスト』という映画で宮内優里の音楽をはじめて聴いたときのことを不意に思い出した。良かった。
トクマルシューゴ『In Focus?』
トクマルシューゴのアルバムを少しずつ遡っている。前述した『TOSS』の前は2012年リリースの『In Focus?』。インスト曲と歌モノの境界が(良い意味で)感じられないのが印象的だった。単曲でも聴けるとは思うが、アルバムを通して聴くことに大きな意味がある。「Katachi」は単曲でもめちゃくちゃ名曲だと思うが、「Circle」からの流れで聴くことに大きな意味があるし、なんならマリンバを主体としたインスト曲「Gumma」まで合わせて聴くことに意味がある。続く「Decorate」もサウンドが充実感と清々しさを備えており、やっぱり良いなぁと思える。
その他にも、目にとまった点を挙げていくとキリがないのだが、Pokerの絶妙な楽しさはクセになるし、Tightropeは夏を感じさせる名バラードだったし、Down Downの後半の展開からは即興性のようなものを感じて面白かったし、Balloonの中には2曲あるような印象を受けてその自由さに心を掴まれる。まだまだたくさんある。
『Song Symbiosis』から見ると12年前の作品ということになるが、様々な変化はあるものの基本的にこの時点で一つの「カタチ」には到達していることが窺える。「Katachi」が個人的に好きすぎるところはある。
その他
乃木坂46「他人のそら似」
最近やたらと聴いているこの曲。最初に聴いたときには男女関係の歌だと思って、なんだこれは… と思ってしまったが、「僕のこと、知ってる?」を念頭にして聴くと、確かに正統な後継曲だろうと思うし、「アイドルとは」というテーマに対して、一つの答えを明確に示していると思う。
最近、与田祐希が主演している『量産型リコ』を観ているが、過去シリーズと同じキャストが別役で登場して別の物語を生きているのは、ある意味では「他人のそら似」的であり、突き詰めていけば、まさに「アイドル」的なのかもしれないとぼんやり考えている。過去に観てきたよく似た者たちと重ね合わせながら、この新しい物語を「消費」している。
7月から『ラヴィット』のシーズンレギュラーに復活して活躍しているアイドルに、昨年卒業していった別のアイドルの「あったかもしれない未来」を少しだけ重ねてしまうのもまさに「他人のそら似」的である。なぜだかこの曲は最近の私のテーマ曲のようになりつつある。