ブラームス『ドイツ・レクイエム』を先日聴いたときに、管弦楽伴奏ではなく4手ピアノ伴奏版があるということも知って、せっかくならばそっちも聴いてみようと思い、今回はコールヴェルク・ルール(フローリアン・ヘルガート指揮)演奏の『ドイツ・レクイエム』を聴いた。
『ドイツ・レクイエム』のテキストは聖書の言葉を再編成したものであり、その構成の仕方がまず興味深い。テキストをさっと見たときにまず目を引くのが第2曲の以下のフレーズだった。
人はみな草のごとく
人間の光栄はみな
草の花のごとし。
草は枯れ
花は散る
(訳は下記の「対訳」リンク先より引用)
歩いているときに目に入ってくるものというのは、どこを向いて歩くかによって変わる。月や星、あるいは雲は上を向いているときに目に入ってくるものだ。対して、草や花は下を向いているときに目に入ってくるものだ。人間を草や花に喩えるのは、視線が下に向いてしまっている人に向けての言葉のような気がする1。
第2曲はこの言葉に続いて、「だから今は耐え忍びなさい、愛しい兄弟よ、主の来たるその時まで。(中略)朝の雨と夕べの雨を迎えるまで。」というヤコブ書簡からの引用が続くところにグッと来た。草花にとって「雨」は恵みなのだ。雨というのが(少なくとも現代的には)悲しみや涙の比喩として用いられることを鑑みたときに、この一連のテキストには凄みを感じた。
コールヴェルク・ルールの演奏は丁寧に歌われていて、ツボを押さえた良い演奏だった。静穏な部分はもっと静穏でも良いかなと思ったところもあるが、柔らかく温かい演奏であり、強奏でもうるさくならない程度にしっかりとした響きがある。管弦楽版とはもちろん違った味わいがあって、スケールダウンすることを懸念していたがそれも特に感じず。良い一枚だった。
Brahms: Ein Deutsches Requiem
Chorwerk Ruhr, Florian Helgath, Johanna Winkel (soprano), Krešimir Stražanac (bass-baritone)
2019 (Coviello: COV91905)
Links: Presto, HMV, 対訳
★★★★☆(2024/6/20)
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- このような対比は、坂元裕二『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』でやられていて、それを念頭に置いている。↩