What Didn't Kill Us

娯楽を借りた生存記録

Schoenberg: Verklärte Nacht – Strauss: Eine Alpensinfonie / ウィーン・フィル


ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるシェーンベルクの弦楽合奏版『浄められた夜(浄夜)』と、R.シュトラウス『アルプス交響曲』の録音。詳細は調べきれなかったが、おそらく2023年の会員限定コンサートの録音。指揮はクリスティアン・ティーレマン。今回は名前だけ知っている。

少し余談だが、サブスクリプションによって高音質でクラシック音楽の録音をほとんど無限に聴けるというのは、お金の心配をせずに気軽に色々聴けるという面では良い時代なんだろうと思う反面、選択肢が過剰すぎるため、何を聴くか選ぶのがかなり難しい。その選びにくさは参入の新しいハードルのような気がしているし、結局は無難そうなところ(知ってる名前)に落ち着いてしまう。

シェーンベルク 『浄められた夜(浄夜)』は弦楽合奏のための作品。リヒャルト・デーメルの詩に基づいて作曲された単一楽章の作品であり、詩(アルス室内合奏団のページ)を読んでみると、まぁ強烈な話といえば強烈な話だが、21世紀の映画やドラマだったらこのくらいの話はありそうだなという内容ではある。詩を見ずとも物語を再構築できるくらいシェーンベルクの表現力は豊かだ。陰鬱とした暗黒から安らぎと希望の光へ、たっぷり時間をかけて到達してゆく大きな物語の中に、様々な激動が描かれる。希望への明確な転換を見せる第4部がやはり強い印象には残る。

R.シュトラウス『アルプス交響曲』は管弦楽曲をほとんど聴いてこなかった私にとって数少ない昔から好きな管弦楽曲。千葉フィルの解説都響の解説にお世話になった。登山をテーマにした曲で、日の出や頂上における金管楽器を中心とした圧巻の華やかさや、雷雨と嵐、下山における烈しさなど目立つ聴きどころは多いのだが、個人的には最初と最後に響く「夜(Nacht)」を聴くためにこの曲を聴いているところはある。特に最後の「夜」の虚無的に眠りに堕ちるかのような音楽がとても好きで。

今回、改めて聴きながら登山を圧倒的に高い解像度でドラマティックに描写した作品であると同時に、登山という経験を経ることによる不可逆な人間的変容もこの作品には埋め込まれているように思われた。『浄められた夜』は暗闇から光への変容を描いた一方、『アルプス交響曲』は(どこか『浄められた夜』を彷彿とさせるような)暗闇から様々な激動の果てに再び暗闇へと帰っていく。だがそれは、振り出しに戻ったようで振り出しには戻っていない。ラストの夜の手前にどこか夢想的なオルガンを経て、登山を回想するかのように流れる「終末」の音楽(Ausklang)は登山者の「変わってしまった」ものを暗に示している。同じ「夜」は二度とない。本質的に『浄められた夜』における変容の物語と『アルプス交響曲』の変容の物語は重ね合わせられるのではないか、みたいなことを思案しながら聴いた。完全に『浄められた夜』に引っ張られて聴いてしまったが、それが逆に良かったような気もする。

どんな演奏だったかという話をほとんど書いていないのだが、技術的な部分について書くにはまだまだ見識が足りない(合唱についても足りているとは思っていないが)。今回は結構いい出会いだった。管弦楽シリーズの第2回。


Schoenberg: Verklärte Nacht – Strauss: Eine Alpensinfonie
Vienna Philharmonic, Christian Thielemann
2024 (platoon)
★★★★★(2024/7/16)

Schoenberg: Verklärte Nacht – Strauss: Eine Alpensinfonie

Schoenberg: Verklärte Nacht – Strauss: Eine Alpensinfonie

  • ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 & クリスティアン・ティーレマン
  • クラシック
  • ¥1833