What Didn't Kill Us

生存記録。レビューはしません。

Nightfall / Voces8

明けない夜はない、という言葉が好きじゃない。夜という言葉に悲しみや苦しみを重ねて、朝日に希望を重ねているということは分かっている。だが、生きる苦しみのほとんどは夜ではなくむしろ太陽が昇っている間に起きるではないか。その人が生きる環境や価値観による違いがあるのは分かっているけれど、少なくとも私は夜になるといっそこの夜が明けなければ良いのにと思うことの方が多い。明日が来て欲しいなんて思うことはない。夜に居心地の良さを覚えている人間にとって夜明けはもはや絶望でしかない。太陽の光は敵でしかない。夜明けを希望と思える人間は、そもそも日々を苦しんでいないのではないかと、そんな偏見を嘯きたくもなる。でも、この世界はきっと「明けない夜はない」という言葉に感動し、勇気づけられる人のためにできていて、この言葉に疎外感を覚える人間のためにはできていない。こんなことを考える人間に居場所はない。

この『Nightfall』というアルバムは、孤独な夜に孤独なままでいることを許し、そして肯定してくれる。夜明けを喜べない人間に夜の美しさを教えてくれる。少なくとも今の私にとってはそうだった。この世界のどこかに自分と同じような人がいるかなど分からないし、いたら共感できるかもしれないというよりは、誰もこんな風に苦しんでほしくないという気持ちの方が強いが、未来の私がいつか同じように苦しむ日が来るかもしれないことを想像して、このアルバムがきっとあなたの救いになってくれるという言葉を書き残しておきたい。

パーソナルでポエティックな感想ばかりを書いてしまったのだが、音楽的にも優れた一枚。オープニングとエンディングを飾るチョン・ジェイルの詩篇も素晴らしいし、ルドヴィコ・エイナウディ(M5)、マックス・リヒター(M7)、近藤浩治(M10)の作品の合唱アレンジがあまりに素晴らしかった。アルバムの中でもこの三曲を強く推したい。合唱原曲では、別のアルバムでも聴いたことのあるカレンサ・ブリッグスの「Media vita」や、アルヴェーン(M6)、ティケリ(M14)あたりが好きだったかな。今後流行りそうな名曲も多く、安定感のある演奏も素晴らしかったし、必聴のアルバムであると思う。


Nightfall
Voces8
2024 / Decca: 4870458
★★★★☆(2024/9/27)

○Links: Presto, HMV

Nightfall

Nightfall

  • ヴォーチェス8
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥1935